冬至の歌声、夏至の踊り

arasuji

近世ポーランド。通辞になるため川の向こうから言葉を学びにやってきたしっかり者の少女ゴルダと、お調子者の地元っ子アグニェシュカ。二人が一緒に過ごした最後の冬。(「少女たちのヴィギリア」)
古代アイルランド。年の離れた従姉シネンドに憧れる少年ルーは、夜ごと恐ろしい予知夢に悩まされていた。予定された未来を変えようとする彼が、火祭りの踊りの陶酔の中で見たものとは。(「宴の火」)
冬至と夏至をめぐる二つの物語を収録。

(本の裏表紙のあらすじより転載)


kansou
「少女たちのヴィギリア」
 舞台は少し昔のオードラ川流域シロンスク地方だそうです。現代のポーランドあたりの地域だそうで、川を隔てた向こうとこちらでは言語が全く違って、というか昔は同じ国の中であっても森の向こうの村とは言葉が違って全然話せなかったりということがあったようですがそんな村々で子供を交換して互いの言葉を覚えさせる風習がありました。そうして川の向こうの村からやってきた少女ゴルジと、そのステイ先の家の少女アグニェシュカの過ごした最後の冬至の祭日のお話。人間的な営みの美しさを感じるお話でした。日常を切り取った短い小説で、大きな事件の起こるようなお話ではなかったですが、祭日の特別なキラキラした感じが、少女たちのいきいきとした姿を一層輝かしく表して、人生にはこういう美しい一面が確かにあるのだと、読んでいて改めてはっとさせられました。
 近世ポーランドの庶民の生活って全然知らなかったですが、この村では普通に生活の中にある食事や儀礼や歌や占いやなんかが、こと細かに描かれて目の前に浮かぶようで本当楽しかったです。アグニェシュカは本当にかわいい。

「宴の火」
 こちらは逆に非人間的な(?)美しさの感じられるお話でまたうっとりさせられました。古代アイルランドの神話からの創作だそう。出てくるケルト的な言葉や人名から美しいのですが、音楽の表現、森に聞こえる様々な音、火を囲む夏至の祭りの踊りの、跳躍や回転の美しさ、五感に加えて夢や幻まで出てきて訴えかけてくるものが本当すごくて、読んでいると主人公の必死さが伝わりつつも、ヒロインのゆこうとする運命的な力の流れにずるずる引き込まれて、こういう小説はもしかして初めて読んだかも??というような新鮮な感じがしました。ひとつの幻想が完成しているような。

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発行:銅のケトル社
判型:文庫(A6) 53P
頒布価格:300円
レビュワー:匹津なのり