ハニワを作りに「のぼうの城」の行田市へ!

 第二回の「再会」がテーマのアンソロジーに参加した時、
「小説以外のものが少ないなぁ」
 と感じた(第三回は不参加でした。ごめんなさい)詩歌やエッセイのような作品がもっとあれば、読書の幅が広がって楽しいのに。私が書くとしたら旅行記か体験記かな。〆切までに今回のテーマ「和」に合うようなこと、何か出来ないかしら……
 それとは全く関係なく、マイ・スイート・ハニーDちゃんが、
「ハニワを作りたい」
 とうわ言のように繰り返していた。私もハニワは好きだけれど、作るのはちょっと面倒な気がして、真面目に取り合ってこなかった。しかしふと思った。ハニワってもしや、日本固有のもの……? 調べてみると、一部朝鮮半島で出土した例があるものの、基本的には「古墳時代の日本の文化」と考えて良さそうだ。
「秦の始皇帝が作らせたハニワ」
「チグリス川とユーフラテス川の間で発見されたハニワ」
「アメリカ先住民が祖先を讃えるために立てるハニワ」
 みたいなのが世界中にあると思っていたよ。
 これならアンソロのネタになる! 私は俄然熱意を持ってハニワ作りについて調べ始めた。

 ハニワは埼玉県行田ぎょうだ市にある「はにわの館」で作ることが出来る。営業時間が短く休館日も多いので、予定を合わせるのに少々難儀したが、どうにか予約を入れることが出来た。
 さあ出かけよう、とカバンを持ったところで、Dちゃんはおもむろに爪を切り始めた。爪に粘土が入ると困るからかと思いきや、
「爪が伸びていると、ハニワに爪あとが付いてしまうからね。なめらかなハニワを作るために」
 自分の爪よりハニワの方が大事なのね。
 行田市は埼玉県の中でも群馬寄りにある。我々は東京寄りの方から出発したため、同じ県内でもずいぶん遠い。大宮駅から高崎線に乗り、鴻巣こうのす駅を過ぎたところで感動してしまった。
「鴻巣の先にも埼玉はあったんだ!」
 鴻巣が埼玉の果てのような気がしていたので、地平線の向こうに進んでいくイメージ。他県出身のDちゃんはそもそも鴻巣を知らないという(普通そうですよね)
 吹上ふきあげ駅で降り、バス(朝日自動車の行田折り返し場行き)に乗る。車窓の風景は広々と開けていて、遠くまで見渡せる。
「これで海が見えたりしたら気持ちが良いのに」
「何だよっ 埼玉に無理を言うな!」
「何でのりが怒ってるの……」
 産業道路というバス停で降り、そこから二十分程歩く。この辺りは「のぼうの城」で有名になった「忍城おしじょう」の城下町なので、忍の字の付く地名が多い。忍川を渡った先、さきたま古墳公園の一角に「はにわの館」はあった。家からここまで二時間。立派な旅である。
 粘土は一キロと二キロから選ぶことが出来る。Dちゃんは二キロでやるつもりでいたのだけれど、
「初めての人は少なめの方が良いですよ」
 と言われ(何度も作る人がいるのか)二人とも一キロにした。これで高さ十五センチ~二十センチのハニワが出来るという。一人六百円だ(完成品の送料は別)
 最初に指導員のお姉さんが粘土を使って目の前で全工程を実演してくれる。教えてもらった通りに出来るか不安になりつつ、まずは親指くらいの太さの粘土の棒を作り、それをろくろの上にとぐろを巻くように重ねてゆく。粘土が乾く前に上の段を下の段に押し付けて、円筒を成長させていくような具合だ。
 あまり背を高くすると地震の時に倒れる恐れがあるな。小さめ・太っちょのハニワにしよう。そう考えて一段目の円を大きくしたら、何段重ねても円筒がすぼまっていかないので焦った。このままではハニワではなく土管になってしまう。小説を書いている最中に、
「この話、結末に向かって収束するのだろうか」
 と心細くなるのに近い感覚。
 ある程度の高さになったら、胴に穴を開けて腕の形にした粘土を差し込む。
 Dちゃんが突然、
「あーっ! 考え事してるとダメだな!」
 と叫んだ。
「どうしたの?」
「腕にする粘土を細くし過ぎちゃった」
「何考えてたの?」
「ハニワの顔。目とか鼻の位置をどうしようかな、って」
 ハニワのことを考え過ぎてハニワ作りに失敗する…… すでに身も心もハニワ一色。上手く作ろう、なんて思わなくても、そこに粘土があり、作ろうとするものがあれば、自然と真剣になってしまう。陶芸マジック。
 私はデコボコの仕上がりになるのがイヤだと思い、表面が平らになるよう、外側はもちろん内側も水を付けたヘラで何度もこすった。シュッ、シュッ、シュッ!
 Dちゃんがやりたいと言うから付き合いで来たようなものなのに、ひとりでに湧き上がる情熱が可笑しい。コンクールに出品する訳でも、親方に怒られる訳でもないのに。
 ちらりと見たDちゃんのハニワが「オバケのQ太郎」そっくりで、エッ? と思った。Dちゃんはずっと、
「のりの顔のハニワが作りたい」
 と言っていたのだ。けれどももしかしたら、胴の形が定まったあたりで、
「これはのりというよりQちゃんだな!」
 と計画を変えたのかもしれない。私はDちゃんに似せたハニワにするつもりなのに…… 寂しいけど、Dちゃん以外に特に作りたい顔もないので、そのまま続けることにした。
 土管をどうにかハニワらしくしなければいけない。粘土の棒を内側寄りに重ねてゆく。苦労の甲斐あって、ややとんがり頭になってしまったものの、どうにかてっぺんを閉じられた。ホッとする。
 作業をしているDちゃんの顔を見つめ、同じ形の鼻を作る。濡らした歯ブラシで接着面をこすり、ハニワの顔となる部分の真ん中に押し付ける。後で取れないよう輪郭を指でならして接合。同じ要領で三角形の立派な眉毛も付けた。
 木の棒で目の穴を開け、たれ目に見えるようにヘラでまぶたの線を入れる。ちょっとだけへの字がかった口の穴を作り、ハニワ完成!
 Dちゃんのハニワを見ると、あっ! ぶ厚くて大きい唇と、太い眉毛が付いている!
「ちゃんと私の顔にしてくれたんだね」
「最初からそう言ってたでしょ」
「途中でチラッと見た時に『オバケのQ太郎』そっくりだったから、計画を変えちゃったのかと思って」
「のりとQちゃんが似ているだけだよ……」
 Dちゃんが作ったのりハニワと、私が作ったDちゃんハニワ。めおとハニワだ。のりハニワはQ太郎で、Dちゃんハニワは鼻が高くてモアイっぽい。
「のりが作ったハニワ、写真を撮ろうとしたら顔認識されてたよ」
「ハニワにしてはリアル過ぎたかな」
 最後に指導員の方が糸を使ってハニワをろくろから切り離してくれる。二時頃始めて四時過ぎに終わった。粘土少なめコースにしておいて良かった。閉館は四時半なので後片付けも含めるとギリギリだった。余った粘土を捨てたり、ろくろをぞうきんで拭いたり。水道が小学校にあったのと同じ形で懐かしくなった。
 指導員のみなさんにお礼を言って外に出ると、五月だからまだ日は高く、新緑の木々の間を風が吹き抜けている。小鳥たちの鳴き声も聞こえ、最高に気持ち良い。
「周りのことが一切気にならなくなるくらい集中したよ! たまにああいう時間があるのは良いね」
 Dちゃんは晴れやかに言った。確かに他のテーブルの人たちは学生集団や家族連れでワイワイにぎやかにやっていたのに、私たちは作業中、ムダ口一切無しだった。
「付き合いのつもりが、妙に頑張ってしまった……」
 ハニワは一ヶ月ほど乾燥させてから窯で焼き上げ、そののち着払いで送ってもらうことになっている。どこかの段階で割れてしまう可能性もあるけれど、今日この経験が出来ただけで私は満足だ。

 さきたま古墳公園にはその名の通り古墳がある(というより古墳があるからこの辺一帯が公園になり、その附属施設としてはにわの館があるのだ)大きな前方後円墳を見たかったけれど、行田駅へ行く市内循環バスがすぐ来るというので諦めた。何しろここはバスの本数が少なくて、これを逃すとまた二十分歩いて別のバス停に行かなければならなくなる。
 バスの中で忍城址の説明が流れた。しかし降りて見学すると帰れなくなってしまうから、そのまま通過。古墳ものぼうの城も見ず、ただただハニワに夢中になっただけで行田市を後にするなんて。
 歴史好きな人たちが、
「もったいない!」
 と叫ぶのが聞こえるようでした。

※史跡を廻りたい場合は、車で来るか、行田駅のレンタルサイクルを利用した方が良いと思います。タクシーを使うのも手かもしれません。

※ついでにゼリーフライという謎のB級グルメも食べ損ねました。ほんと、ハニワを作っただけだったね……


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柳屋文芸堂(URL
執筆者名:柳田のり子

一言アピール
異性愛、同性愛、家族愛、友情など、人が人を思う気持ちなら何でも扱うサークルです。代表作は「贋オカマと他人の恋愛」 普段は「恋愛小説」ジャンルにいますが、物語以外の文章も大好きで、よく書きます。ネット公開している作品で最もアクセス数が多いのは「ぬか漬け日記」です。

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コメント

  1. 塔守 より:

    この方、筆がめちゃくちゃ達者(文字書きとして胸キュン)
    そして作品の雰囲気、とても好きだ。

  2. まゆみ より:

    ラブラブ具合に和みました。やり取りが楽しくて、時折笑ってしまいました。

    • 柳屋文芸堂 より:

      Dちゃんとは知り合って20年経ちます。
      毎日楽しく会話し続けられるのは、本当に奇跡のようだなぁと(のろけ)
      読んでくださってありがとうございました!

  3. よそこ より:

    夫婦でお互いの顔のハニワを作るなんて、なんてロマンチック。
    神社の狛犬みたいにお宅の守り神になりそうですね♪

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