太白寮小景 セイガイ波!

「青海波ってさ、強そうだよね」
……はい?
「青海波だよ青海波。なんか強そうじゃね?」
突然何を言い出すんだこの人は。

星月学園。大正時代にどこぞの侯爵が某王国の某伝統校に憧れて作ったという、中高一貫、元全寮制の私立男子校である。通学生が増えた今でも七つの寮は健在だ。
その一つ、太白寮。五年生――この学校では学年を中等部・高等部通して一続きの数字で表わしている――のオズこと小津亘は食堂へ夕食に向かう途中で六年生の檜山康太に捕まった。

「なんかこう、セイガイ波ー! って感じで。強そうじゃね?」
同意を求められても。
今日芸術鑑賞で舞楽見たけど、そんなこと考えなかったよ……。っていうかあの踊りからそれ思う? 完全に語感だけで言ってるよね!?
「ほら、あるじゃん、カメハメ波! とか」
たしかにあるけど、カメハメ波はそもそもハワイのカメハメハ大王から名前を取っているってツッコミはした方がいいのだろうか。
「カメハメ波だってカメハメハ大王から取ってるんだから、セイガイ波だって有りじゃね?」
……あれ?
「むしろセイガイ波の方が元々『波』ってついてて近くね?」
なんかこれ、言いくるめられてる?
「カーメーハーメー波ー!」
あ、打った。
「セーイーガーイー波ー!」
ああ、打っちゃった。
ちなみにここは廊下のど真ん中。他の寮生たちが器用に避けて通って行く。
「うん、強そう強そう」
そう満足気に言うと悠々と食堂へ入って行った。自由だなあ。
紺にたまにグレーが混じる寮生たちの中、ただ一人の赤いボーダーのベストが異彩を放つ。
各寮の六年生から一人だけ着用を許される、赤地に自由な柄のベスト。
それを着ている彼は、何を隠そうこの太白寮の寮長である。
適当だけど。何考えてるのかよくわかんないけど。とにかく適当だけど。
放任主義に見えて時に厳しく、寮生たちからの人望厚い、文句なしで選ばれた寮長なのだ。これでも。
「オズー! 早く来ないとお前の好きな納豆なくなるぞー!」
青海波には満足したらしい寮長、康ちゃん――後輩とはいえ付き合いの長い三年生以上あたりからはちゃん付けで呼ばれている――が叫ぶ。康ちゃんはやたらと声が通る。
「納豆嫌いだってば!」
精一杯大声で返しながら、自分も食堂へ入った。今日の夕食、メインはたしか焼き鮭だ。
美味しそうな匂いと寮生たちの賑やかな声が広がる。
今日も太白寮は平和だ。


Webanthcircle
サークル名:サテライト!(URL
執筆者名:古月玲

一言アピール
雑多にささやかなお話を書いています。
『太白寮小景』は、中高一貫男子校の小さな寮を舞台にした掌編シリーズです。

Webanthimp


コメント

  1. 浮草堂美奈 より:

    なんだかよくわからないけど、「うん、確かに強そう」と思ってしまう説得力がありました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.