白蜥蜴の夢

arasuji
【小説】宇野寧湖

高校で英語教師をしている聖羅は30歳の誕生日を迎えた。友人も恋人もいない孤独な日々を穴蔵のような古アパートで過ごしている。
「自分を変えたい」と決意して、「処女を捨てる」ことにした。春の陽気の中、SMバーに迷い込んだ聖羅は、同じ学校に勤務する「保健室の先生」に遭遇。彼との一夜を迎えることになり……
「取り返しのつかない過去」を抱えながら生きる女性の「回復」と「赦し」の物語。

*成人向け作品です。
(第四回Text-Revolutions Webカタログより転載)


kansou

登場人物が真摯で、素敵だなと。誰も自分の生に一生懸命で肯定的。だからひしひしと力強い。温かいと感じるのは、そうした肯定の強さが通底しているのが読んでいてわかるからだろう。
真摯だから他人とぶつかりもするし、すれ違いもする。秘密を打ち明けられもするし打ち明けもする。そして羽翼を求めることに瞞着しない。出すべき時に信号を出し、これを見逃したり黙視しない。
それらは真摯さに裏打ちされた「強さ」だ。(したたかさ、と読み変えてもいい。)こういった動きは迎合や軽薄なニヒリズム、外連からは生じえない。

底にいるのなら、あとは上がるしかないし、幻や過去を見て生きてきたのならば、あとは現実や未来を見据えていくしかない。機根は誰にでもある。それを逃げたり誤魔化したりせずにどう発心するか。
そうした点では、冒頭の時点から主人公は強かった。
彼女はパートナーに会って変えようとしたわけではなくて、自分から変えようと発起したわけだから。(むろんパートナーとの出会いによって、変わろうとする速さは強力に推進されていくわけだけど。)

脇を固める教師たちにも、生徒に截然と区切りをつける恰好良さがある。
当の生徒たちはすぐに納得しにくいんだけど、彼女たちが成長して来し方を振り返った時、彼らがもどかしいほどの「大人」であったと伝わっていることだろう。でも、成長した彼女たちの教え子(がいるとして)にはまた納得してもらえないんだろうな、というこのもどかしいほど伝わりづらい区切りに、良識を見た。

ところで上で主人公たちを敢えて「パートナー」と書いた。
そもSM関係というのは相互のSだとかMだとかの性質以前に、信頼あってこそ成り立つものだ。だからこそ心身を委ねるのだし、委ねられもする。逆に言えば信頼を傷つけないようたえず気を配っていなければ成り立たない。
Mだとされる主人公がパートナーを振り回しているように見えるのも、そのためではないかな。
本作ではSMの本質の部分、つまり信頼の構築が丁寧に描かれている。表面の部分は気にすることはない。
しかしSMに限らず、信頼の上にはどんな関係でも成立しうると思われるので、結局のところ本作は人間関係の信頼を描いているのじゃないかな、と思ったりしたり。

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発行:ヤミークラブ
判型:A6(文庫)/282P
頒布価格:800円
サイトヤミークラブ
レビュワー:シワ