プリズム

arasuji

――あらゆる想いと言葉を、カミは記す
カミの記したことわりのなかで、ヒトは生きる
そう、不思議なことなど何もない
ここは可能性の海、うつろう夢、満ち足りた無

世界とことわり、魔術師と魔女、永遠と歪みを描く三部作。
本編のほかに番外編3作、ツイッターに投稿した短文も掲載。

【第一部 魔術師のお話】
世界のことわりを読み解く男、魔術師は気紛れから一人の娘の命を救う。深い森、茫漠の緑のなかで師弟として生活を共にすることになった娘と魔術師が過ごす、ちぐはぐだけれど穏やかな日常を描いた短編連作。

時間を捨て、不老不死となった魔術師。彼の孤独と永遠に寄り添う娘が、師の過去に触れ、森の秘密と魔術師たちの決断を知るにつれ、ことわりによって編まれた世界がほころび、絡み、歪んでゆく。緑なす森だけが、しんと息を潜めていた。

【第二部 黄昏の魔女とある男のはなし】
フランツ・グリルパルツァーの「Der Kus」を元に、七つのキスにまつわる戦と誓約の物語。
森に住む、黄昏の色の眼の魔女。魔女を欲した時の王、聡明な王子、魔女の友、そして魔女が守るもの。

手の甲に尊敬を/額に友情を/頬に厚情を/唇に愛情を/閉じた瞼に憧憬を/掌に懇願を/首と腕に欲望を/

さて そのほかはみな

【第三部 雨降りの森と夢見鳥のはなし】
森に眠る彼女はやがて目覚め、真白き鳥とともに旅立つ。
彼女はいつか語るだろう、
彼女はいつか紡ぐだろう、
彼女はいつか記すだろう、

――新たなことわりと、物語を。

(第5回Text-Revolutions Webカタログより転載)


kansou

短い断片。夜毎ゆっくり読むつもりが、後半は止められなかった。永遠のひとつまみの物語は欠片を重ね、時を行きつ戻りつ。魔術師と黄昏の魔女と雨の子、ヒトではないもの、ヒトのようなもの、繋がりのかたち。過ぎ去った時間を謎解きつつ、物語は進む。時にほのぼのと、時に残虐に。歪みと狂気を抱える静かな物語は豊かな森の中幕を閉じる。
正直なところ、かなりの不親切設計だ。こんなにもこんなにも言葉を費やしても事実の描写はほんの僅かで、叫びのように抽象的な概念だけが残される。けれど、それがほんとうに叫びなのだと痛烈に胸に残るのだ。残響がワンシーンをフラッシュバックする。
あとがきから推測するに、ナギノさんが自分の叫びを物語に落とし込むのに、エンターテイメントより独白に近い形式を「優先せざるを得なかった」時期の物なのだと思う。これが根っこにあって、今の作品群なのだなあと感じた。優劣・技巧の話ではなく、ストーリーテーラーとしての形態が変わっていく過渡期を目の当たりにした気分だ。
だから本作は初心者ではなく、今の凪野作品が好きな人に、オススメする。

ところで私は魔女に言いたい。一番大事な物以外もまるっと大事にしてください。わかるけど、作戦も手段もわかるけど、100年ごとにそんなん繰り返してたら自分がすり減るっつの!
一番大事な物のために自分の扱いが雑になるなんていかん。時間はある。これからは智慧で躱して乗り切って。

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発行:灰青
判型:A5 246P
頒布価格:1000円
サイト灰青
レビュワー:まるた曜子