何があっても信じることを強要されるRPG

「俺が悪かった。反省する。二度と裏切ったりしないと誓う。頼む、命だけは助けてくれ!」[どうしますか?]「命を取らない」OR「叩き切る」

 とあるゲームの中盤、初期から仲間として背を預けて来た頼りになる仲間が、実は敵の組織と通じていて、プレイヤーである主人公の行動が筒抜けになっていた事が明らかになった。その上、旅路の中助けた人物を敵対勢力の邪魔になるからと闇討ちで葬ったり街に火を放ったりしていたことも同時に発覚する。その全てがひょんなことで白日の下にさらされたところでそのスパイキャラは逆上して主人公に襲いかかったが、負けそうになったら途端に命乞いを始めた。
 それが冒頭の謝罪セリフである。
 ゲーム中、幾度となく奴は「俺がお前の背中を守る。安心して前へ進め」「俺は絶対にお前を裏切ったりしない」「たとえ世界を敵に回しても、俺だけはお前の傍にいる」と歯の浮くような、しかし心強い言葉を投げかけてきた。その真摯な眼差しに一点の曇りもないようにみえた。ところが全ては主人公を信用させ、監視する為だったのだ。
 それだけではない。主人公の旅の目的に両親の仇討ちがあるのだが、どうも殺害した実行犯にこいつが含まれているようなのだ。回想シーンでは命乞いする両親に対して、笑いながら無情に止めをさしている。死体から金品を巻き上げ、死体処理も念入りに行い、当時幼かった主人公を利用する為何食わぬ顔で近づいて育てた。
 成長した主人公が旅に出ると保護者顔で同行し、闇の組織に楯突く厄介者を前述のとおり片付け、全て主人公になすりつけた。おかげで主人公はお尋ね者。首にかけられた賞金は一家が一生遊んで暮らせる分にまで跳ね上がった。
 信じられるわけがない。許せるわけがない。
 命乞いするそいつは自分の行いを暴露はしたが、組織については口を割らず、ここで激情にかられてぶった切っても主人公の濡れ衣はかかったままだ。此処は仇討ちより、身の潔白を優先すべきだろう、と考えた。
 そこで私は主人公に「命を取らない」の選択をさせた。改心してまた味方になる可能性もある。正直背中を任せられないが、二重スパイをしてくれるかもしれないし、武器を捨てて白旗をあげる相手に攻撃するのは気が引けたからでもある。
 すると、そいつは。
「ありがとうよ、この恩は一生忘れないからな! じゃあ達者で暮らせよ」
 と言って、姿を消した。嫌な予感がしてメニュー画面を開いて確認すると、アイテムに置き手紙が追加されていた。読むと、これまで買ってやった装備も持ち逃げされ、あげく資金も「俺が稼いだ分は貰っとく」と半分もスリ取られていたことが判った。
 次に会ったとき、確実に切り捨てようと固く心に決めた。

 ゲーム終盤、因縁の組織のアジトに潜入したとき、幹部ルームで憎きあいつと遭遇した。
 そのとき主人公側は八人パーティ。装備も充実しレベルも申し分なく上がり、最早負ける要素のない状況だった。袋叩きの準備は整っている。
 だが、なんとそいつは主人公たちを見てこう言った。
「複数で襲いかかるなんて卑怯だ。正々堂々、一騎打ちで勝負を決めよう!」
 臆面もなくサシの勝負を提案してきた。このあとアジトのボス戦が控えている以上、さっさとこいつには引導を渡して先へ進みたいのだが、主人公の仲間達は驚くべき反応を見せた。
「復讐の相手なんだろう? なら、お前の手で決着をつけるべきだ」
 仲間想いの発言なのは判る。けれども今はそんな温い感情は要らない。全員で囲み容赦なく攻撃し、完膚なきまで潰すべき相手である。
 プレイヤーの誰もがそう思うだろうが、選択肢すら与えられずに一対一のバトルへ直行。鬱憤が溜まっていたので後先考えず魔法やアイテムを出し惜しみせず完勝してやろうと意気込んだ矢先、奴は召喚術を使い、手下を三匹も追加した。
 主人公の仲間たちは当然、猛抗議したが、そいつはしれっと「こいつらは俺の半身であり、分身体のようなものであり、一心同体の存在だから問題ない」と言い切った。
「なるほど! それなら問題ない!」と仲間たちは納得した。彼らは本当に主人公の味方なのかとても疑わしくなってきた。このまま彼らと一緒にいて奴のように寝首をかかれないだろうか。奴が与えた疑心暗鬼は育んだ絆さえ崩壊の兆しをみせる。
 とはいえ、奴は味方だったキャラが寝返ったときにありがちな、体力だけ増えて他のパラメータは変わっていないという貧弱な相手だったので、本気を出した主人公でたやすく蹴散らしてしまった。
 膝をついたそいつは、またもや武器を捨てて土下座した。
「すまん、俺が間違っていた! どうかしていた! 正気じゃなかったんだ! だから許してくれ! いや許してくれなくてもいいから命だけは勘弁!」
 見苦しい様この上なかった。
 戦意と武器を放棄した奴を見て、刀の錆にするにも値しないと、主人公は武器を収め、踵を返して背を向けた。その直後。
 奴の懐から抜き出た凶刃が閃き、主人公の背中へ飛来した!
「危ない!」
 主人公の背にナイフが突き刺さろうとしたその瞬間、主人公の幼馴染の女の子が身を挺して庇った。刃は深く腹に突き刺さり、少女はばたりと床に付した。
 皆、少女に駆け寄った。主人公は血塗れの彼女を抱き起こしたが、心臓を直撃、致命傷だった。治癒呪文も回復道具も最早効かない。主人公達は涙に濡れた。だが少女は「あなたの役に立てて良かった。一緒に旅が出来て幸せだった」と微笑んだ。最後に主人公の頬を赤く染まった手で触れて、名前を呼んで、事切れた。
 彼女の名前を叫び慟哭する主人公、気づけば、奴の姿は何処にもなかった。

 悲しみに打ちひしがれながらも主人公たちはアジトを突き進んだ。一度脱出して彼女の亡骸を埋葬したかったが、作戦時間がそれを許さず、遺体を奴の部屋に残して前進した。
 その甲斐あって、とうとう敵の頭領を追い詰めることに成功した。
 そのボスは在り来りな理想をつらつらと述べ、それが主人公たちに受け入れられないとわかると否や、勝負を挑んできた。
 流石に手強かったが、ここに来るまで十分に戦闘経験値を得て強くなった主人公たちにあっさり押されていった。配下もほぼ片付けていたので増援の心配もない。
 ボスの体力が底を尽きそうになり、よろけ始め、もうあとひと踏ん張りだ、と思ったとき、まさかの事態が起きた。
 なんと何処からか治癒呪文が届いて、ボスの体力が全回復したのだ。
 驚いていると、カメラが戦闘フィールドの端を映す。そこでカーテンの影から呪文を唱える奴の姿が捉えられた。この後に及んでまだ邪魔をするか。
 それに気づいた仲間の一人が矢をいかけると、奴はさっと身を躱す。しかし主人公たちと目が合うと、途端に狼狽え始め、
「ああ、すまんすまんうっかり助ける相手間違えたぜ!」
 と言って、主人公たちに傷薬を一個渡して逃走した。
 その後、ボスは回復されることもなく、やがて正義の前に倒れた。
 ボスは最後の力を振り絞ってアジトの自爆スイッチを押した。爆破までのカウントダウン中に主人公達はアジトから逃げ出せたが、幼馴染の遺体は回収出来なかった。

 エンディング後の話。
 悪の組織は壊滅し、背後にいた闇の王も撃破して、平和を取り戻した主人公一行は、やることがなくなったので、ゲームクリアで解禁された隠しダンジョンに挑むことにした。そこではクリア前に手に入らない強力な装備が眠っているらしく、更に最奥で挑戦者を待つゲーム中最強の隠しボスを倒せば主人公の最強武器が手に入るという。誰もが一番強い敵を倒せたらもう最強の武器は要らないのではないか、という疑問を抱くだろうが、そこはやり込みの証、或いは装備品コレクションだと割り切るしかない。
 とにかくラスボスを倒した実力を試すべくそのダンジョンに足を踏み入れたが、何故だか全ての宝箱の中身が空っぽ、手強そうなトラップも解除され尽くし、施錠されていた扉も開いたままになっていた。途中の中ボスも生暖かい死体になって転がっている始末。拍子抜けにも程がある。一体、何があったのか。
 そうして難なくダンジョン最深部にたどり着くと、誰かが隠しボスに止めをさしていた。
 そいつは隠しボスから押収した光り輝く剣を抱えると主人公たちに気づき、近づいてきた。
「よう、せめてもの償いに、お前の敵は倒しておいた。これで貸し借りはチャラだな」
 そいつはやはり奴だった。何て事をしてくれる。せめてその戦利品は寄越せ。
「こんなことで全部水に流して貰おうなんざ思っていないが、万が一俺にまた会いたくなったら、この大陸の街のどこかの酒場にいるから、探してくれ」
 そう言い残して、奴は風のように逃げ去っていった。
 私は血眼になって主人公たちに各地の酒場を回らせた。最強の隠しボスへの腕試しができないなら、奴を倒して最強装備を奪い取るシナリオなのだと推測したからだ。
 ところが何処を探しても奴の姿は影も形もなかった。
 ネットのゲーム攻略スレッドや攻略ウィキペディアを丹念に調べ、攻略本も購入して読んでみたが、『奴はその後どこにもいない』事実を突きつけられるだけだった。つまり、奴の討伐も、あのダンジョンのアイテムも入手出来ないという。ネットの掲示板はその話で酷く荒れていた。私はそのゲームソフトをすぐに中古屋へ売りに行って、忘れることにした。

 現実世界での二年後、件のゲームの続編が発売した。
 当初買う予定はなかったが、『前作の不満点を解消した』との謳い文句に惹かれて、あの悪夢はもうないと踏んで購入してみた。私は買うゲームのネタバレを酷く嫌うので、クリアするまでネットでそのゲームソフトの掲示板などを見ない主義であった。主人公も前作から交代し、舞台も異なるからと大丈夫かなと気楽に構えていたら、序盤で前作で出てきた件の奴がふらりと現れて、
「俺がお前を信じるから、お前も俺を信じろ」
 と言い、仲間に加わった。思わずコントローラを投げた。
『奴が持っている光り輝く剣は仲間の間は使わず、敵に回った途端使い出す』というネット情報を見た私は、そのゲームもすぐに売りに行った。
 ネットの情報が一番信じられるなんて、貴方は信じられますか?


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サークル名:漢字中央警備システム(URL
執筆者名:こくまろ

一言アピール
第3回のときから変わっていませんよ。

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