Birthday

「誕生日だなんて全然嬉しくない。年取りたくないし、それに……」
「それに?」
「なんでもない」
 訊いてから、コスタはしまったと思った。いつか聞いた身の上から知った恋人エディの誕生日。その記念日の十二回目に、エディは母親から捨てられたのだ。
 ベッドサイドテーブルのように使っている椅子の上、食べきれそうにない大きさのケーキにコスタは手を伸ばす。エディの趣味に合うようにスカルやゴーストの形のクッキーやチョコレートで飾られた、バースデーというよりハロウィンのようなケーキはママ――コスタが働くバーの主人――の手作りだ。
 クリームを指ですくい、コスタは自分の胸元に頭を載せているエディの機嫌を取るようにその口元へ運ぶ。ピアスが連なる口を開き、エディは指を含んだ。安い市販のもののように砂糖がざらつくことのない、なめらかなバタークリームのミルキーな風味がエディの口内に広がる。
「店で買うのよりおいしい。ママ、スゴいなー」
「もっと食べる?」
「ウン」
「……僕は嬉しいよ、エディの誕生日。君が生まれた日だもの」
「まあ、そこはあの豚女に感謝してもいい」
 祝ってもたいして喜んでもらえなかったことにコスタはやや落胆しつつも、生まれてよかった、と思えるようになったらしいエディの言葉に嬉しくなる。ケーキを一切れ、手に取った。
 エディはコスタの手からケーキをついばみ、クリーム塗れの手を舌ピアスでくすぐりつつ丹念に指の間まで舐めて清める。しばらくそんなプレイを楽しんでから、コスタはエディにこちらを向かせ、クリームのついた口端を舐めて甘いキスをした。
 そのまま盛りあがり、行為を終えてから、エディはスッキリした面持ちで言った。
「もういい、あんな豚女のことは。大嫌いなんだ。捨てられてむしろ助かったよ。向こうも嫌いなボクを捨ててせいせいしているでしょ」
 エディがベッドを出る。窓から射す朝の光を浴びる白い肌には母親とその情夫たちから受けた虐待の古傷と、リストカットの痕が目立つ。同性愛を否定する、自分の両親と分かり合うことはできなかったが、普通に愛されて育ったコスタにはその古傷が信じられず、許せない思いで眉をひそめる。が、
(嫌いねえ……そんなことはないと思う)
 エディの話を聞いた限り、コスタはそう思う。街娼(フッカー)だったというエディの母親はたぶんまともな生い立ちではない。当たり前の愛を知らないであろうエディの母はただ、愛し方がわからなかっただけではないか?
 誕生日にケーキを置いてエディの母が消えたのは……。
「そうだな」
 しかし、コスタは偽った。推量でしかない考えを押しつけるのは傲慢だと、クリスチャンらしい判断をしたのだ。なにより、ただでさえ不安定なエディの情緒を揺さぶってしまうかもしれない。
 リストカットの痕は赤く、古傷ではないのだ。やめさせようとしたら余計に悪化したことがあったから、たまに掃除が甘く床に血痕が残っていても「なんでもない」と言うエディにコスタは深く問わなくなった。胸を詰まらせながらも。
 枕の下に手を突っ込んでリボンのかかった小箱を取り出し、コスタもベッドから出る。冷蔵庫からドクターペッパーのペットボトルを出して飲んでいたエディに近寄る。
「はい、プレゼント」
「ありがとう。悪くないかも、誕生日」
 中身はリストカットの痕を隠せるリストバンド。差し出された小箱を受け取り、エディは笑ってコスタに軽いキスをした。
(エディの誕生日、上書きしていこう)


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サークル名:ikuraotome出版(URL
執筆者名:山本ハイジ

一言アピール
エログロ、アングラ、ダウナー系な創作小説が主。新刊のBLコピ本「マルガリータ街 8番通り 某番地#305」の外伝SSになります。

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