深海魚飼育のウソ

 実物の深海魚をみられる場所は、一般の人なら水族館だ。深海魚を展示の目玉にしている水族館のツイッターアカウントでは、深海魚が手に入ると、展示のお知らせをしてくれる。
 深海魚の長期飼育は、どの水族館でも難しいようで、ある程度の期間展示できたとしても、深海魚が死んでしまう場合が多い。
 深海魚の死の原因になるのは、1.捕獲時の外皮の損傷、2.高温表層水に暴露されるダメージ、3.減圧によるダメージ。そして、詳細な生態がわかっていない深海魚は、飼育も難しいということになる。

 1.外皮の損傷は網などで捕獲した場合に、影響が出てくると思われる。JAMSTECの深海探査で深海生物を捕獲するときは、掃除機で吸い取るように、深海魚を吸引装置で捕獲しているため、外皮のダメージは最小限になっている。
 2.高温表層水の高温は、お湯のような温度ではなく、海洋表層の水温のことだ。
沖縄近海では冬でも海洋表層の水温は25℃くらい、北海道では冬は2~3℃くらいだが、深海の水温は年間通して、約2~3℃である。
 深海魚にとっては、25℃はかなりの高温になる。高温にさらされると、低温環境で生活している魚の粘膜が損傷して、人間でいう火傷のような症状になってしまう。
 また生体の細胞膜を構成する主成分のリン脂質もダメージを受けると思われる。細胞膜のリン脂質は、流動的に動いていることよって生理機能が保持できる。仮に深海魚の細胞膜が25℃の水温にさらされると、バターが高温調理で溶けるように、細胞膜が崩れてしまい、生理機能を失って、個体として死に至ってしまうだろう。
 3.減圧によるダメージは、見た目に分かりやすいことを書くと、深海から急激に魚を引き上げたときに、魚の口から浮き袋が飛び出している状態になること。
 人間のダイバーでも浮上速度が速いと、減圧症といって関節や脊髄に気泡ができてしまう。
 深海魚は、ずっと同じ水深いるばかりでなく、浅い水深と深い水深をゆっくりと行き来している種もあり、ある程度の圧力の変化には適応できる身体になっているが、時間をかけずに深海から引き揚げてしまうと、やはりダメージが残るだろう。

 JAMSTEC横須賀本部では、毎年5月の第2週に一般の方が内部を見学できる一般公開というイベントがある。今もそうしているかは知らないが、深海魚をディープアクアリウムという装置に入れて例年展示していた。
 ディープアクアリウムというのは、JAMSTECが開発した金属製の球体に観察窓が付いた、小さなUFOみたいな深海生物飼育装置のことだ。
 この装置を深海探査機に取り付けて潜航し、深海魚を吸引してディープアクアリウムに捕獲する。船上でディープアクアリウムを循環装置に接続すると、大気圧下でも深海の高圧低温環境のまま、深海魚を飼育し続けることができる。
 ディープアクアリウムを用いることで、深海魚の長期飼育記録が作られたこともあったので、深海魚の飼育に現場環境を維持することが大切な要素であるのは間違いではない。
 しかしJAMSTECの一般公開で、ディープアクアリウムに入れて展示される深海魚は、普段、普通の水槽で飼育されているそうだ(水温は厳密に管理されていると思うが)。展示のためにディープアクアリウムに入れるのは、いかにも深海魚という雰囲気を出すためのウソということになる。
 水族館で深海魚をみるときに、開放型の水槽を使っているのを思い出してもらえるだろう。

 昔は漁でイカを水揚げしても、鮮度を保って輸送するのが難しかったが、今は生きたまま輸送できるようになった。
 イカのアンモニア排出物を輸送中も浄化し、イカ同士が噛み合うことの無いように個別の水槽に入れて輸送できる技術ができたからだ。
 水族館の飼育員さんや、深海魚研究者の地道な研究によって、深海魚の飼育技術も、まだまだ進歩してほしい。


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サークル名:カシパンドローム(URL
執筆者名:小出マワル。

一言アピール
マリアナ海溝の調査に行ったレポート「深海航路」、地球深部掘削船に乗船したレポート「掘削日和」を書いてきました。

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