「わああっ! お小遣いだ! おっこづかいっおっこづっかいっ」
 目の前の見るからになギャルに札を渡したが、これは援助交際ではない。ましてやデートではない。
 浅草駅に着いてから明らかにバレバレな尾行を続けられたので「お嬢ちゃん、三千円あげるから餡蜜食べに行かない?」と声をかけたら「餡蜜奢ってくれるんすか!」とあっさり了承されたのだ。
 当然だが、俺の所持金が三千円しかない訳ではない事も付け加えておく。単に俺の稼業は緊急事態の出費というものが避けられない稼業なだけだ。
「ところで、おじさん」
 ナチュラルにおじさんって呼ぶんじゃねえよ。これだからギャルは。
「青銭兵六、探偵だ」
「あ、私浮草堂美奈です」
 餡蜜を頬張りながらあっさり名乗られた。尾行してた自覚あんのかコイツ。
「兵六おじさん、暑くないんすか?」
 あ、頑なにおじさんなのね……。
 確かにまだトレンチコートを着込む季節ではない。暑いさ。暑いとも。
「商売道具だよ。で、美奈ちゃんは何をやってたんだ?」
「あー、なんかよく分かんないけど、まるた曜子姐さんから『和』の謎を追う為にって」
……曜子か。ち、わざと頭と口の軽い手駒を選びやがったな。
「あっ、これ内緒にしなきゃダメなヤツだった! あー、怒られるよー。どうしよー」
 お前の将来がどうしようだ。
 しかし、やっぱりあいつも『和』か。
「つーか、『和』ってなんなんすか?」
「詳細は不明だ。ただ、それを手にしたものは日本を掌握するっつー話が『テキレボ準備会』から通達されてな」
「テキレボ準備会?」
「俺達の業界の元締めの一つ……つーか、美奈ちゃんもどうせ持ってるんだろ?」
『異能』
という言葉を口にする前に、甘味処の扉が開いた。
 コイントス。
「曜子姐さん!」
 その女が入ってくると同時に、全ての店員が平伏し、客が会話を止める。
 蝶のようなひらひらとした服を纏った女子大生に見えるが、俺がガキの頃からこの姿だった女だ。
『異能 羽化待ちの君』存在を記憶した相手全てに、自分に対して恋情を抱かせる。
 故に、この店内の全ての人間が彼女に逆らえなくなる! 俺も攻撃不可能だ。
「結構早かったわね」
 悠然と笑みを浮かべるのに対し、焦りを隠して返す。
「ああ、お前の手下が三千円で着いてきてくれてな」
 一瞬で曜子の表情が凍る。
「美奈、三千円程度で男の人に着いてっちゃ駄目。三千円は駄目。絶対駄目」
 そんなに真顔で説教しなくても良いじゃねえか。俺の立場的に。
「何処で拾ってきたんだよそいつ」
「大学の同級生よ」
「そんな上下関係はっきりした同級生がいるか」
「一年留年したの」
 此処でヘタにツッコミを入れていられないのが今の情況だ。
「で? お前も『和』を?」
「もう聞いたんじゃない?」
 曜子のリーチから距離を取る。問題は美奈だ。こいつ、どんな異能だ?
 刹那、窓が割れる。
「世津路さん! 本当にいました!」
「章君、合言葉いこっか?」
「はい! 全員確保、ですね!」
「げっ、世津路章!」
 思わず声を上げる。窓から入ってきたのは長身の美女(ボンキュッボンだが、それどころじゃない)と、小柄な少年。
「業界きっての武闘派さんが何の御用?」
 少年の方が笑顔で答える。
「ちーず。さんが『和』について調べ上げる前に」
 美女のが続ける。
「敵対勢力を確保しとこうってね」
「「じゃ、そういう訳で」」
『異能 ミス・アンダーソンの安穏なる日々』肉体を二人に分身させ、女の方は最高峰のっ身体能力を持つ。
 ちーず。め、厄介なヤツを寄越しやがった。
「曜子姐さん、よく分かんないっすけど、この人達やっちゃっていいんすか?」
 魔族殺しの異名を持つ相手の登場に、流石の曜子も冷や汗を垂らすが、即答。
「やりなさい」
「アガる!」
『異能 ヘヴンズ・ドアー』
 美奈の手元にBAR自動小銃が出現する。
「曜子、あれは」
「昔のよしみね。美奈の異能は一度廃棄された歴史のある銃火器を出現させる異能」
 発砲!
 自動小銃の銃声が響き渡る。
 だが、世津路(女)の身体能力は―。
 それをすべて躱している!
 天井、床、壁を飛び交い、弾丸を躱す!
「!」
 一瞬、世津路の姿が見えなくなった、次の瞬間、美奈の喉笛を掴んでいた。
「パネエ……」
「まあね。魔族殺しは伊達じゃない。っていうか、貴女こそ客に被害が出たら如何するの?」
「え? なんかヤバいんすか?」
 不思議そうに問うた美奈の首を、即座に世津路は締め上げにかかる。
「危険分子は潰さないとね、章君」
「そうですね、世津路さん」
 割って入るべきか、と考えたが、店内にボソボソとしている癖に響く声に気付き、動きを止めた。
「“伊勢・尾張・美濃・飛騨では不時に暴風が吹くことがあり、これを俗に一目連といい、神風となす”……」
 突風!
 とっさに吹き飛ばされないようにするのが精一杯だ。
 それを生み出した男は、一つ目の目玉を店内に浮かびあがらせながら、ボソりと呟いた。
「僕が……文系だからか……?」
「は?」
 成人しているのに、戦前の大学生のように学ランを着込んだ男、青砥十は、眼鏡の下の儚げな顔に憂いを湛えて呟き続ける。
「僕が文系だからなのか……? 妖怪の説明をしないと異能が発動しないのも……。戦闘開始に微妙に遅れてしまうのも……。後輩のふみちゃんからラインが返って来ないのも……全部……僕が文系だからなのか……?」
『異能 後輩書記とセンパイ会計』説明を述べた妖怪を出現させる。
「どうせ大体の自称文系は数学ができないだけなんだ……。どうせ妖怪好きなんて妖怪ウォ〇チ好きと同義語なんだ……。せめて……せめて『和』くらい……僕が手にしたっていいじゃないか……!」
 すごくボソボソと語っているが、狙いは分かった。通称妖怪博士たるこいつの狙いも『和』らしい。妖怪大戦争かよ。勘弁してくれ。
「何この人ヤバい」
 お前が言うな、美奈。
「仕切り直しね、世津路章」
「曜子さん、すみませんけど、貴女の異能で店内の人避難させてくれませんか? 災害みたいな連中が揃ってるみたいなんで」
「あら? 人質って言葉知らない?」
「はっ、流石“魔女”まるた曜子」
 空気に緊張が走る。
 誰が、最初に動くか―。
「おやおやあ。ド派手にぶっ壊してますにゃあ」
 空気を切り裂いたのは、窓から入ってきた小柄な体であった。
「ナコ……!」
「いけませんにゃあ。アンニュイですにゃあ」
 少年か少女か分からない容姿。頭に猫耳。
 ナコ、性別年齢職業一切不明。
 唯一判明している事。
『異能 コネコビト』発動した場所を攻撃無効空間とする!
「ナコさん、調停者の貴方が出向いてこられたという事は、テキレボ準備会に動きが?」
 世津路(少年)の問いに、ナコは可愛らしく肩を竦める。
「ナコは平和を望んでいるだけですにゃ。でも、そのことならさっきからずーっと電話してるその人に聞いたら良いと思いますにゃ」
 やれやれ、流石攻撃無効化だ。
「まあ、ちーず。さんも着いた事だしな」
 待っていたかのように、和服の粋な男が姿を見せる。
 情報屋ちーず。
『異能 愛しのナー』全世界の猫と会話交流可能。猫がいる限り、世界中の情報を得る事ができる。
「高見の見物とは感心しませんネ、兵六さん」
「アンタに言われたかねえよ、ずっと俺と電話してたんだからな」
「ま、そりゃあそうですねがネ。かといって、お前さんの異能はちっとばかしずるい」
『異能 ジェフェリー・クロウズ』発動中にしている事を誰にも気づかせず、隠し続ける。トレンチコートを着込んでいる時のみ、発動可能。
「で、電話……?」
「ええ、あたしが得た猫さん達のお喋りに『和』の正体がありましてネ。そちらを青銭兵六さんにお電話してたんです」
 ちーず。は足元にすり寄ってきた猫を抱き上げる。
「まあ、皆さんにお教えしても良いんじゃありませかネェ」
「まったくだ。とんでもない事を考えやがる。テキレボ準備会ってヤツは」
「テキレボ準備会?」
「異能力者のギルド結成計画だよ。俺達救いようのない連中をテキレボ準備会の元、ギルドとして集める。それが「和」プロジェクトだ。まあ、みんな仲良くしましょうってんだから最終的には「和」だろうさ。要するにそのまんまだ。マトモに募集して集まる連中じゃないから、こんな方法を取ったんだろうさ」
「まァ、別にできて困る計画でもありませんし、あたしらには」
 ねえ? れぼんちゃん? とちーず。は抱いている黒猫に話しかける。
 黒猫は「ぼん」と鳴いてみせた。
 了。


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サークル名:浮草堂(URL
執筆者名:浮草堂美奈

一言アピール
通常運行はハードボイルドダークファンタジー。銃とか多め。何の因果か刀剣乱舞燭へし長谷部監禁R18本を今回は執筆。通常運行の本もあります勿論です。

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