同人ストレイドッグス~嘘つきはダレ?~

 小春日和の浅草寺。
 テキレボ準備会がまとめる異能ギルドの面々が、顔をそろえている。
「桂瀬さんの仰るとおり、少し面倒なことになったわね」
 口元に手を当てるのは、通称“魔女”まるた曜子。何歳なのかはまったく不明。私がこの業界に入ったころからずっと女子大生の姿をしている。異能『羽化待ちの君』彼女を記憶している相手を、彼女に恋させる。
「まったくだ。ちーず。のヤツはロクな話を持ってこねえ」
「あたしは情報屋ですヨ。話を持ってきたのはあたしでも、そういう展開にしたのはあたしじゃありゃしません」
 トレンチコート姿の男が不平を言うも、粋な和服の男は取り合わない。
 青銭兵六。異能『ジェフェリー・クロウズ』トレンチコートを着用している間、自らの行動を認識不能にする。
 ちーず。異能『愛しのナー』世界中の猫と会話できる。その情報網に漏れている地域は無いと云う。
「えー? 何がヤバいのかよくわかんなかったっす」
 いかにもギャルでございという恰好で、浮草堂美奈が疑問を呈する。簡単に言えば話の意味がわからなかっただけのようだが、手心を加えた表現にしてやる。
「要するにや」
 私は説明を噛み砕く。
「テキレボ準備会の中に、ギルドを乗っ取ろうとしている不穏分子がおるいうことやな」
「ふおんぶんしって何すか?」
 うん。パーなんだな。
「簡単な話ですね、世津路さん」
「説明してあげましょう、章君」
 二人で一つのように喋るが、本当に世津路章は二人で一人だ。異能『ミス・アンダーソンの安穏なる日々』肉体を美女と少年の二人に分裂させ、美女の方は最高峰の身体能力を持つ。
「テキレボ準備会の裏切者を殺っちゃえって話ですよね、世津路さん」
「そうね、章君」
「とんでもない翻訳せんといてえ!」
 業界きっての武闘派はこれだから困る。そこまで言ってない。
「桂瀬君のツッコミはいつ聞いてもキレがある……だけど……なぜこの状況を止めてくれないんだ……僕が文系だからか……世津路さんに羽交い絞めにされて………美奈さんに爪にインキを塗りたくられてる状況お似合いなのは……全部文系だからか……」
 状況説明をしながら絶望しているのは青砥十。今日も成人しているというのに学ラン姿だが、まさにそういう状況だ。
 通称“妖怪博士”の名が気の毒だ。異能『後輩書記とセンパイ会計』妖怪の説明をすると、その妖怪を具現化できるという強力な異能なのだが……。
「インキじゃないっす。マニキュアです! やっばい超かわいくねコレ?」
「別に」
「兵六おじさんノリ悪いー」
「そうですヨ。お前さんもやってもらえばよかったのに。お嬢さん方の楽しそうな姿を見るのもよいもんじゃないですか。爪が多少華やかになったところで減るもんじゃなしねえ」
「ちーず。さんわかってるー。超ラメ乗せまくってデコったんで、めったなことじゃ落ちないっすよそれ」
「なんてことしてくれたんですか」
「日ごろの行いだな」
 笑顔が消えるちーず。とやけに嬉しそうな兵六。美奈と世津路はウキウキと作業を続行する。
「まあ、話を戻しましょう。ちーず。さん。それで、その不穏分子がこの中にいるという根拠は?」
「痛いとこを突きますネ、曜子さん。根拠がわかればその人が誰なのかもわからないくらい、うすぼんやりした情報でしてねェ。一番の事情通さんですら「なんだかそんな気がするぼん」としか」
 ほとんど言いがかりに近いものがあるな。
「っていうか、ほんまに気のせいやとありがたいですな。うちらのお友達に裏切者がいるなんて考えたないわぁ」
「じゃあ、犯人は兵六さんね」
「どういう意味だ曜子」
「桂瀬さんはお友達だけど、あなたはお友達じゃないから」
「ツンデレがかわいい歳だと思ってんのか。何百歳だかわかんねえくせに」
「正統派のセクハラか!」
 思わずつっこんでしまったが、曜子のセリフもそれはそれでひどい。絶対仲良しだろうこいつら。
「まあ、お友達ではないけれど、嫌いだとは言っていないわ」
「魔性か!」
「曜子姐さん、私も疑ってるっすか?」
「美奈は疑ってないわよ」
「やったー! 姐さんやっぱりいい人!」
「ね?」
 全員が「わかる」と返答する。謀略とかできるおつむじゃないな、こいつ。
「でも……確かに怪しいのは……もともと一匹狼の行動が多かった兵六さんと世津路さんだな……」
「青砥さんがさりげなく自分を外したのは許しがたいですね世津路さん」
「一番一人での行動が多かったのに、逆に疑わしいわね章君」
「拷問しましょうか世津路さん」
「拷問しましょう章君」
「魔女裁判か!」
 マニキュアを塗り終え(ラメラメデコデコのネイルが完成)、解放した途端にこれである。世津路章、最近平和だからフラストレーションが溜まってるんだろうか。
 それを言ったら、確かに平和を破る今回の一件はいい刺激かもしれない。
 だが、こんなツッコミ要員を一人でやるパターンはかなり疲れるのでどうにかして貰いたいものだ。
「前回の戦闘パートで怒られませんでしたからネ。調子に乗ってギャグパートを入れている訳です。なお、この物語はフィクションであり、実在の人物とは無関係ですので、混同しちゃいけませんヨ」
「とうとうメタ発言まで発せられた!」
 くっ、この雷門の前でのツッコミ登竜門をなんとか終わらせなければ。
「とにかく、みんなの疑いをやな―」
 その瞬間。
 雷門の上から、小さな体が急直下してきた。
「みんな! 騙されちゃダメですにゃ!」
 全身激しく。トレードマークの猫耳までボロボロの姿の、少年か少女かわからない調停者。
「ナコさん? あなたは中立のはずじゃ」
「ナコが“異能以外で”攻撃された場合は激しくアンニュイですにゃ! そんなことより、いつまでそんな芝居をするつもりですにゃ!」
 ナコ。異能『コネコビト』自分から一切攻撃はできないが、全ての異能を無効化する。
「桂瀬衣緒! テキレボ準備会内乱集団「300字SSポストカードラリー」の首領! その異能は『城ノ内探偵事務所』初対面であっても自らを友人と思い込ませる能力ですにゃ!」
 おやおや。
 異能無効化でわかってしまったらしい。
 彼らと長年の友人のような顔をしていたが。
 実際には顔を合わせるのも初めてであることが。
 まったくこんなことにならないように、ナコを最初に片付けたのに、見かけによらずタフなヤツだ。
「今日のところはうちの負けやな」
「逃すか!」
「ここは異能無効化空間や。あんたらの異能の情報は全て得た。うちがギブアンドテイクの関係になる理由はないやろ? ほなな」
 背後に、境内を突っ切ってくるバイク。
 ひらり、と運転手の後ろに飛び乗る。
「今は現状維持といこうやないか。異能ギルド、「テキレボ準備会」成長したところを喰った方がよさそうや」
 なあ? と去り際に笑いかける。
 エンジン音にまぎれて、黒猫が「ぼん」と鳴いた。


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サークル名:浮草堂(URL
執筆者名:浮草堂美奈

一言アピール
どうもー! 普段はハードボイルドダークファンタジーを書いております浮草堂と申します。同人作家が異能力者という設定ですが、モデルとなった方々はこんな人達じゃありませんのでご注意ください。

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同人ストレイドッグス~嘘つきはダレ?~” に対して2件のコメントがあります。

  1. 世津路章 より:

    らめええええポスカラリーさんにテキレボ食べられちゃうのおおおおおおおおおお><

    1. 浮草堂美奈 より:

      テキレボ内乱! 最大勢力300字ポスカラリー! ってぽくないですかないですか!

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