2019年8月9日 / 最終更新日時 : 2019年8月8日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 もしも彼女が 会談にやってきた社長は若い女性を伴っていた。部下を連れてくるとは聞いていなかった。面識があっただろうかとユートは記憶を探る。「ああ、申し訳ない。私の娘でね」 ユートの視線に気づいたのか社長は令嬢を紹介した。真っ赤になっ […]
2019年8月7日 / 最終更新日時 : 2019年8月7日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 私の鱗 左頬にできた吹き出物は、つぶれ方が悪かったのか、かさぶたを経てシミになってしまった。 鏡で確認すると、小指の先ほどの皮膚が茶色く変色している。 ある日、ふと触れたらするりと滑らかな感触がした。首を傾げつつ、もう一度指先 […]
2019年1月28日 / 最終更新日時 : 2019年1月27日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 雪の庭 雪が降っていた。水気の多い雪である。地面に落ちると自分の重みでぺしゃりとつぶれてしまう雪だった。 一匹の三毛猫が古い民家の軒下にいた。黒の部分が多めのその三毛猫は、寒がる様子もなく雪を見ていた。 民家は半ば朽ち果て […]
2019年1月26日 / 最終更新日時 : 2019年1月25日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 ご自宅用 「ご自宅用ですか?」 そう聞かれ、思わず「はい」とうなずいてしまった。 気付いたときにはもう、一輪の豪奢な赤い薔薇は無骨なクラフト紙に包まれていた。 自宅に持ち帰るのは間違いないのだけれど。 やっぱりプレゼント用 […]
2018年5月28日 / 最終更新日時 : 2018年5月26日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 県民の日 波の音をベースに懐かしい歌を口ずさみながら、防波堤を歩く。忘れてしまった英語の歌詞を適当にごまかしたら、メロディもわからなくなった。 謎の虫を踏まないようにして、大きくひらけた海に向かって仁王立ちする。 白波の打つ […]
2018年5月1日 / 最終更新日時 : 2018年4月30日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 朱い海と金の薔薇 大きな夕日が空を朱く染めている。 当代唯一の「名前を呼んではいけない魔女」の称号を持つ魔女――通称「時の魔女」は、崖下の岩場に魔法陣を描き、海に向かって仁王立ちしていた。緑の瞳に夕日の色が映りこむ。実年齢に反して見た […]
2017年8月8日 / 最終更新日時 : 2017年8月15日 straycat 第6回Webアンソロ「祭」 融 裏門から通りまでは狭い石段で、左右は竹林だった。屋台の灯りもここまでは届かない。人のざわめきに代わって、さわさわと葉擦れが私たちを包み込む。 「真っ暗」 そう呟くと、彼がほおずきの籠を掲げた。朱色が辺りをほんのり照ら […]