2020年10月16日 / 最終更新日時 : 2020年10月15日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 それって罪の味ですか?〜白ヤギびとは今日も暇です 白ヤギは手紙を書いた。もらった手紙への返信だった。 ありがとう。素晴らしい味だった。この辺りにはない種類の紙で、柔らかく上品な舌触り。使われるインクはほのかに突き抜けるハッカの香り。その奥に潜むは、酸化鉄の匂い。没食子 […]
2020年10月4日 / 最終更新日時 : 2020年10月3日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 親愛なる在校生の貴方へ この手紙を読んでいる、ということは、私はもう、そこにいないのでしょう。 よくこの手紙を見つけましたね。褒めようにも、私はそこにいないので、この手紙でのみ褒め言葉を残しましょう。 貴方には何かしらの才能がある。その才能を […]
2019年7月29日 / 最終更新日時 : 2019年7月29日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 補われる影 学校からの帰り道、あんまりしつこく付いてくるので、声を掛けた。「お前、描いてやろうか」 何でびくっとするんだ。お前が勝手に付いてきているのに。 黒っぽい毛玉は、物陰でこちらの様子をうかがっている。 動かないのを確認して […]
2019年1月28日 / 最終更新日時 : 2019年1月28日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 名知らぬ花のその名前 「見たことのない花だ」 「新種かな」 生まれたばかりの子どもの体に、小さな花が咲いている。 それ自体は珍しい現象ではない。この国は花の神に愛されていて、人々は体に草花を生やして生まれてくる。 珍しいことは、この子ど […]
2018年4月19日 / 最終更新日時 : 2018年4月18日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 海の思い出 海は嫌いだ。 子犬の頃は、真夏のもくもくした雲の下、ホースの水をかけてもらうのが好きだった。小さなビニールプールは独特のにおいで、ためられた水は表面がきらきらと光っていた。 海は嫌いだ。由良が小学生の頃、梓を連れて […]
2017年8月11日 / 最終更新日時 : 2017年8月15日 straycat 第6回Webアンソロ「祭」 りんご飴 下校途中、ふと気づいたら石段の前に立っていた。浴衣や甚平姿の子どもたちが道を横切って、石段を駆けあがる。 祭りだろうか。夏の慰霊祭も、秋の収穫を喜ぶ祭りも、とっくの昔に終わった気もする。 「何の祭りだろうな」 町内 […]
2017年1月12日 / 最終更新日時 : 2017年1月11日 straycat 第5回Webアンソロ「嘘」 春の目覚め 聞いたことのない声だ。 日和ひのわは顔をあげた。碁盤には適当に石が並んでいて、石を抱えていた小さな蛙みたいなものが、日和につられて外を見やる。 「何だろ」 遠方の山は白く霞んでいる。雨が降ったということもない、あれ […]
2016年9月4日 / 最終更新日時 : 2016年9月3日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 秋の日に 家主である六葉が仕事で不在のため、日和ひのわは一人で散歩に出かけた。階をおりて、ここ最近で慣れてきた道を行く。 灰がちな、もつれた髪は、鬼神か何かのようにも見えるらしくて、ときどき人がぎょっとする。でも、日和がきょと […]
2016年2月14日 / 最終更新日時 : 2016年2月16日 straycat テキレボWebアンソロ ネコは、怒っている 「雷針の、ばかあーっ!」 少女が叫ぶや否や、どおん、と近くの電柱が音を立てて割れた。 「ネコはっ、ネコは怒っている……!」 確かに雷針は言っていた。ネコの黒くてぴんとした耳を撫でて、今度の仕事がうまくいったら、お前の […]