anim-I-nimus(アニマアニムス1)


収録作品1「向日葵は太陽よりも美しい」
 白いレースのカーテンが舞い、私は「彼女」と出会った。
 夏空の下、愛を探す旅は「彼女」を探す旅に、やがて母を探す旅へと繋がっていく。

収録作品2「まだ空を見られない」
 夜空を見るのが怖かった。その理由はただ一つ。深い夜の色は、死の色に似ているからーー
 ねえ、今、あたしの未来が見える?

 縁、という言葉を感じることがある。
 合縁奇縁なんて言葉もあるけれど、この作品との巡り合わせは僕にとってまさに合縁奇縁だ。もともと僕はホラーかライトノベルしか基本読まないという、極端に偏向した読書嗜好の持ち主で、読み手としても書き手としても決して褒められたものではない。だからこそ、こういった作品と触れ合える機会があると、何となく嬉しくなってしまう。
 正義の味方が悪の組織を倒す話が大好きだ。
 だけど、正義の味方も悪の組織も出てこない話だって、内心同じぐらい大好きなのだ──文学青年気取りかよ、と思われるのがイヤで公にしていないけれども。この作品に出会ったのは本当にただの偶然、奇縁なのだけど、こういう出会いがあるから物書きを続けていられるのだと思う。

 一冊の本に短編小説二本が掲載されている。『向日葵は太陽よりも美しい』と『まだ空は見られない』の二本の作品には、どちらも正義の味方も悪の組織も出てこない。あくまでも現実世界に則っていて、けれど少しだけ不思議な要素がある作品だ。

 『向日葵は太陽よりも美しい』は、主人公である花崎夏実が巡り会う、ささやかで、けれど少しだけ不思議な出来事を描いた物語だ。付き合っていた男性と破局し、傷心の夏実を慰める「彼女」の語りによって作品は始まる。「彼女」の正体は物語中盤で明らかにされるのだけど、そこで物語を区切ってしまってもいいところで、この作品は更に一歩踏み込む。
 「彼女」の正体を知るだけではただの悲劇でしかない物語に、小さな幸せを付け足す。
 決して蛇足ではない。この救いがあることで、初めてこの作品は完成する。夏の日に咲き誇る向日葵のように、自然な風景だけど、かけがえのない美しさを湛えるラストに繋がる。

 たとえば医療ものドラマで、主人公の医師とそのチームによって難病に打ち勝つような、劇的な幸せが訪れるわけではない。そんな普通の生活とは縁遠い幸せではなくて、僕達の生活にだってふとした折に立ち現れるような、本当にささやかな幸せが提示される。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、登場人物達の生活に確かな続きがあることを感じさせる終わりを迎えるのだ。

 『まだ空は見られない』もまた、同じような優しさを感じさせる作品になっている。
 「近くにいる人間の未来が見える」という能力を持つ少年、飯島研人は、その能力が故に人を遠ざけ生きていた。できるだけ人と関わらないように立ち回る彼が、しかしある出来事をきっかけに、人との関わりを持つようになっていく。ボーイミーツガールの体裁でもあるし、孤独な少年の成長譚でもある作品だ。
 この作品にもやはり、劇的な要素はない。結末もどこか曖昧な部分、読者の想像に任せる部分が残り、決定的な終わりを明示することはない。ただ小さな幸せの予兆だけを残し、結末に至る。

 本作『アニマアニムス』に掲載されている二作品は、偶然か必然か、物語の終わりを明示せずに終わっている。わざと余韻を残している。それがあざとく感じないのは、作品全体に漂う爽やかさ、清らかさのような味わいのせいだろう。
 不思議な縁で巡り会ったキャラクター達は、作品がひとまず終わりを迎えた後も、それぞれの人生を歩んでいく。その行く末を見守るのは読者でもなければ作者でもなく、作中に息づくキャラ達だけだ。彼ら彼女らの爽やかな後ろ姿を目に、僕達読者は再び現実へと立ち返る。
 後には、この作品に出会った縁だけが残る。
 それでいい、と素直に言える作品だ。

 同人文芸作品との出会いは、大抵奇縁だ。一度繋がっても、次また繋がることができるかどうかはわからない。一期一会の可能性も十分ある。
 だけど、きっとそれでいいのだ。
 偶然出会って、偶然別れる。
 咲き誇る向日葵のように、夜色に瞬く空のように。

 一度結ばれた縁は、鮮やかに記憶を彩るのだから。


発行:anim∀nimus(アニマアニムス)
判型:文庫(A6) 
頒布価格:390円
サイト:小説家になろう(秋山英春網月弥
レビュワー:神楽坂司