文芸コンピレーション『input selector』


 サークル「空想少年はテキストデータの夢を見るか?」主催のアンソロジー。サークル主宰の添嶋譲氏がリスペクトするアマチュア作家たちを迎え、それぞれに「もっとも得意な技」をオファーして編まれた作品集である。まるでお気に入りの曲をカセットテープに編集したり、プレイリストに並べたりするような、そんな心地から、「文芸アンソロジー」ではなく、「文芸コンピレーション」という副題を掲げている。
 twitter小説、詩、短編小説など、完成度の高い様々な作品を掲載している。
 目次は以下の通り。

寝物語 layback
いめのさと くまっこ
今度の終末は一人です 城島はむ
/いいえ、世界です。 伊藤なむあひ
エソラゴト 七歩(文)・カナ(イラスト)
ワールドエンド・ショッピングモール 添嶋 譲
一人で食べない 伊藤佑弥
summer slope なかば
夜の養殖 雪月
純粋 いでゆのまち
生命のガソリン 相沢ナナコ
白雪とともに、彼は 霜月みつか

 多くの作者さんと様々な作風が集まっているが、全体的に統一感が取れていて、まさにアンソロジーというよりコンピレーションという言葉にふさわしい一冊である。初めてお小遣いで買った好きなバンドのアルバムのような、そんな感傷がある。
 特にテーマを設けずに原稿を募ったそうだが、どの作品も表面上の作風は異なっていながら共通するイメージを持っている気がした。どの主人公も純粋な心で、好奇心と恐れの中で何かを探している。
 この共通点は何なのか、考えながら読んでいて、ふと脳裏を過ぎった単語は「スターゲイザー」だった。ああ、この本の主人公達はみな星を追う少年なんだと思ったとき、この本の真の命題に気付く。それはまさに「空想少年はテキストデータの夢を見るか?」だ。
 私たちは誰もが空想少年のままで、テキストデータの夢を追い続けているのかもしれない、そんな感傷に浸れる、心地よい痛みのコンピレーションアルバムだ。
 個人的には、城島はむさんの『今度の終末は一人です』から伊藤なむあひさんの『/いいえ、世界です。』の流れは特に好き。ネジ一つ外れただけで世界が壊れるような脆さが描かれ、寓話的ファンタジーの中に世界の本質を突こうとする。特に『/いいえ、世界です。』は、ページのあちこちに意味ありげに記号を配置するという、紙媒体ならではの遊び心もあって楽しい。
 他にも、それぞれの作者がこだわりの体裁、挿画などで楽しませてくれる。文学フリマから選りすぐりの作品を選び抜いたようなお得な一冊である。


発行:空想少年はテキストデータの夢を見るか?
判型:A5 156P
頒布価格:700円
サイト:言葉の工房
レビュワー:唐橋史