勇者のいない世界で


 平凡な少年友納秋緒が出会った奇妙な同級生飛鳥さくらは、
 異世界に召喚されては悪の限りを尽くす魔王だった! 
 殺せば殺すほど、人知れず現実が改変される「世界のしくみ」の中で
 繰り広げられる魔王の戦いに、秋緒は巻き込まれていく……。

作者ブログより転載
ヒロイン☆ふぇすた!参加作品)

 DA☆さんの作品との出会いは、今は無き「Words」という文芸オンリーイベントだった。テーマ小説の募集に応えて投稿された短編「トーヨコふぁんたじあん」のやるせなく幻想的な世界。金曜日の終電の東横線に突如現れたふぁんたじあんという駅。「降ります!」叫んだ時には既に電車は動き出し、再び気怠く憂鬱な日常へ滑り込んでいく──
 人生には後悔と憧憬が常に揺らぐものであると私たちは胸のどこかで理解しているが、その鮮やかにしめつけられるような幻想を10枚程度の短編に落とし込んだ力量に、とても叶わないと感じたものだ。
 その後も「はたらくお姫様」「コロニーにほん」そして大好きな「たびねこ綺譚」……優しく、楽しく、常に胸に温かな感触を残す物語群の中に少しだけ混じる悪戯心。DA☆さんの描く世界は常に少しだけ傾いていて、その微妙な角度が単なるSFやファンタジーにアイロニカルな彩りを添えている。

 この本もまた、最近よく見かける「魔王もの」の皮をかぶせてあるが中身はやっぱりDA☆味。飛鳥さくら=魔王ゴルマデスなのは読み始めてそれほどたたないうちに提示され、勇者ご一行との死闘や結末も含めてここまではまぁ良くあるっちゃ良くあるラノベ的展開と世界観なのだ、が。
 ところがその勇者との結末を迎えて一段落、した後の展開がなるほど彼の作品だ。確かに前段で主人公の違和感として描写されているためにそこでやっと腑に落ちる。ああ、こういうことなのだ──と。
 
 前半は「魔王もの」としての体裁枠の中でやや理屈っぽく感じはするが、この後続いていく物語のための導入としてはこれでいい。しっかり理屈を書いてくれないと、後から後から「は?なんで?」になるからだ。
 まだ1巻目なのでこの先のことは分からないが、もう少し仕掛けはありそう。ていうかあるはず。それがDA☆さんだからっていう、あるようなないような根拠だけど。

 ヒロインのさくら嬢のツンデレなのかツンギレなのか、クールでいて寂しげで、けれど魔王らしく傲岸不遜、と思いきや家族に対して抱く仄かな痛みと悲しみ、そんなものが違和感なく混じり合うキャラクターもいい。実は魔王は女子高生とか無職とかフリーターとか、「魔王」というある意味完成されたイメージに最近は若年層や社会的下層(しかし決してヤンキーではなくてインドア派)を結びつけるのが流行っているのか、そんなものを良く目にする。さくら嬢もキャラの外殻だけなぞるとその中に入ってくる。というか「魔王様は女子高生っ☆」って感じのタイトルでもいい。
 けれどさくら嬢の内包する怒りや寂しさはこれからの世界のひろがりと現実味を感じさせて、魔王で女子高生だけどどこか隣にいそうな女子として彼女を認識することが出来るだろう。全く、萌え的な意味からは遠く。
 戦闘シーンはRPG的。絶対狙ってる。長く付き合ってる作家さんだけに、「あいつ何か企んでるな、絶対に騙されないんだからね(しかし恐らくまんまとひっかかるのだろうな)」という思いが去来する。DA☆さんの書く物は常に用心を重ねて読むが、いつも最後に「あ……」である。こんちくしょう。

 最後に二つだけ、DA☆さんにお願いがある。というかこの二つだけ、直してくれないかな。直して欲しい。直してくれ。直せ。
 1点目。もっと書いてくれよ頼むよ焦らしプレイなの?
 2点目。どうして阪神ファンやめちゃったの? 藤浪と甲子園(擬人化幼女)の薄い本だそうよ?

 以上。 


発行:DA☆RK’n SIGHT
判型:A5 
頒布価格:300円
サイト:DA☆RK’n SIGHT – よしなしごと
レビュワー:小泉哉女