ライン河の城


ライン河沿いに建つホーエンシュヴァンガウ・ノイシュヴァンシュタイン・カッツの三つの城の写真と、それぞれの城にまつわる小説「白鳥城の無垢なる混沌」「黒き湖面の謎掛け」「ローレライと猫」で構成される一冊。

この本を小説としてご紹介するのは、サークルさんの意に沿わないかも知れない。
サイズの大きさ(B4版)や値段を考えると、気軽におすすめするべきものではない。
だが、これほど魅力的な小説たちが、たかだか「小説誌ではない」とか「文芸ジャンルに置かれていない」とかいった、くだらない理由で看過されるのは、あまりにも惜しい。

おおよそ見開きで掲載される写真は、城の全容だけではなく壁や石畳も緻密に映し出し、その迫力にさまざまな想像をかきたてられる。
写真の間に配置された小説たちは、いずれも掌編ながら、端正な文章が毒を含んだ美しい世界を構築し、まさしく「城の歴史を彩る幻想と神秘」や「メルヒェンの明と暗」を描き出している(カギカッコ内は本誌”Einführung”から引用)。
写真も小説も、これらの城にまつわる予備知識がなくても充分に楽しめるが、周辺の歴史に詳しい方ならより深く読み込めるだろう。

ビジュアル要素と小説の取り合わせは難しく、双方のバランスが取れていないと全体にちぐはぐな印象を与えてしまい、ともすると小説の内容に集中できなくなる。
この本では、写真は小説の世界をより大きく想像させ、小説は写真から受ける印象をより深化させる。幸福なマリアージュと言えよう。

あまり見かけないサイズの本は、コミックマーケットの歴史・創作文芸ジャンルでも、コミティアの歴史ジャンルでも、非常に見つけやすいだろう。
もし興味をお持ちになったら、一度ご自身でこの本をお探しになってみてはいかがだろうか。
実物は、どんな説明文よりも雄弁であるから。


発行:Trebuchet
判型:B4 32P 
頒布価格:1500円
サイト:Trebuchet

レビュワー:みちる