夜来香 中国短編小説集一(1)


 中国を舞台にした歴史短編集。それぞれ清代・元代・民国時代に舞台を設定した三作を収録。
 古典的な志怪小説のセオリーを踏みつつ、素朴な民話世界を展開する「変わりっ狐」。さながら芥川のような、柔らかで長閑な展開なのにどこか残酷な「小さい煩妹」。戦前の郷愁と悲恋を描いた王道短編「口琴」。

 収録された三作はそれぞれ作品の雰囲気や主題が違っているので、とても楽しくて飽きません。どれもそれぞれ異なる魅力を放っています。
 子供のころに触れた「昔々の遠い国の知らないおはなし」を読んだときのような、たまらないワクワク感が蘇ってきて、夢中で一気に読んでしまいました。
 素朴な民話と、それをベースにして開かれる新しい世界観。読んでいて心がキラキラする本に出会ったのはなかなか久しぶりでした。
 特にオススメは「小さい煩妹」。無邪気で幼い煩妹は、まだ世の中の愚かさを知らない、そんな中、村は蒙古の軍勢に焼き払われて……
 不覚にも大号泣してしまいました。


発行:龍の髭
判型:A5 44P 
頒布価格:200円
サイト:龍の髭
レビュワー:唐橋史