猛虎の駆けた道~京師誠忠篇


 元治元年、夏。禁門の変をきっかけに京の都は大火に襲われ、宿屋の野里屋の若旦那である大力は、店と母を失った。途方に暮れていた彼の前に翻るのは「誠」の旗――新撰組の至誠の志に胸打たれた彼は、勘定方として入隊し、日々を過ごすことになる。しかし、彼と新撰組を巻き込んで、歴史は容赦なく激動の時代へと突き進んでいく。

 時代考証がっちりの本格派。王道の新撰組ドラマである。
前篇に相当する本作「京師誠忠篇」では、大火をきっかけに新撰組に入隊した架空の主人公・野里大力と、彼の先輩に当たる柄元壮治郎の二人の視点から、新撰組の最も華やかなりし時代が描かれる。
 多くの名作がある新撰組という題材に真っ向勝負を仕掛けている。それでいて文章は読み易く、素直に読める内容で、歴史小説が好きな人であれば納得のクオリティだろう。文学フリマでは珍しい正統派歴史小説なので、歴史好きの皆さんにはオススメしたい1作だ。

 なお、本作のあとに「長州動乱篇」という後篇が続く予定だそうである。こちらでは主人公が入れ替わり、奇兵隊士の視点から幕末の動乱が描かれるとのこと。本作の主人公と合わせ、佐幕派・倒幕派の双方の視点から、多角的に幕末を描くという構想のようで、実に楽しみである。


発行:まなゆき文庫
判型:文庫 119P 
頒布価格:500円
サイト:まなゆき文庫

レビュワー:唐橋史