ヲタ・ゼクスアリス


 知恵利市内の大学に通う大学生・手塚伝二。腐女子の姉につれられて即売会に参加していた伝二の前に、戦う中年・唯田忠孝(ただた・ただたか)と戦闘人形アリスが現れる。吹っ飛ぶBL同人誌、まっぷたつの会議机、始まる戦闘。伝二はやがてGIグループの提唱する「賢者理論」の存在を知る──

 スピーディ。のっけから戦闘で始まるこの本は、最後まで戦闘でしめていく。しかも「○○先生のこれからの活躍に乞うご期待!」的な終わりでシメといて「え? 続き? ありませんけど?」とスペースで言われたんだけど、なんだそれ。続きが読みたいんだよコンチクショー!

 本気だ。ネットでは冗談で語られる「30越して童貞だったら魔法使いになれる」を本気でネタとして使ってきた。「純潔を守り通している男女の生命体としての生殖に向けられるエネルギーを使って驚異的な肉体能力を得る」……という何ともいやはやな設定、だが大まじめだ。
 戦闘シーンに迫力があり、非常にスピーディ。話の展開も同じく、状況はくるくると変わる。見てくれ冴えないおっさんの唯田がデブにあるまじき凄まじい戦闘力を誇り、それに寄り添うアリスの描写も人形っぽい無機質さとほんの僅かに感じる感情のぬくみが最後にほっとさせる。
 理論は……ま、読んでみてください。何というのか、ネット伝説とでも言うべき妖精もしくは魔法使い理論がここまでくれば立派なSFになるのだ、ということを認識していただけると思う。
 
 小ネタもふんだんに盛り込まれている。童貞を揶揄するDTを随所にちりばめ、ほんのちょっとした用語や理論も略するとDT。名前もDT。敵キャラとして登場する賀重院銅定(がじゅういん・かねさだ)も名前の部分をはい音読みして下さいネー。知恵利市という名前の解題はちょっと時間がかかったが、気づけば何のことない、チェリーじゃないか。チェリーね……何でこの感想こんなにイカ臭いんだ。

 ラストは物語が大きく広がる予感で終わる、のに続きありませんとか言われたから発狂である。ここで終わらせるのはもったいないとは思うんだけど、もうちょっと食わせろよ、と思うあたりでやめておくのも判断の肝なのかもしれない。
 DTだらけで決め台詞ですら童貞なのだが、おかしくて楽しくて、あっという間に読めた本。

 エンタメ大好きな方には是非手にとってほしい本。そして俺とDT理論について語り合おうぜ。


発行:クロヒス諸房
判型:文庫版 192P 
頒布価格:500円
サイト:クロヒス諸房

レビュワー:小泉哉女