セフトバンク・ダディ(1)


「たけまる信金、メガバンクモードへシフト!
 お客様の強行突入に対し、対地対空迎撃戦を展開します!」

金融機関からの現金強奪が合法化した、いつかの未来。
武装し要塞化した銀行及び信用金庫『メガバンク』は、
日夜強盗企業との激しい攻防を繰り広げていた。

窓口係兼第三砲撃手、上武凛子の勤めるたけまる信用金庫に、
大手銀行をいくつも破ってきたという新進気鋭の強盗企業『白糸家』が襲い掛かる。
銀の翼で空を飛び、弾幕を潜って現れたその敵は、人語を解する白い柴犬だった。

これは、この世で最も強き父親たちが贈る、ハートフル・バトル・ホームコメディである。
(サークルサイトより)

あらすじは、作者さまのサイトから引用させていただきました。
このあらすじが、この物語の方向性を如実に物語っております。
「金融機関からの現金強奪が合法化」してしまった、どこかの時代のお話。
(こうなってしまった理由がまたいかしていて、思わず腹を抱えて笑ってしまったのですが)

ちいさな信用金庫に勤める「窓口係兼第三砲撃手」というやけにいかつい肩書のついたおねーちゃん・上武凛子と、やけに紳士的な強盗の『白糸家』(not『○戸家』)の大黒柱・ダディ(白い犬)が織り成すお話。
とんでもなく荒唐無稽で、しかし「でも、その『危うさ』はあるかもしれない」って思わせてしまうだけのものが積み込まれた設定ににやっとし、緊迫感溢れているのにどこかとぼけた登場人物たちの掛け合いに和みます。
「ああ、こいつ面白黒人枠だ」っていう凛子の諦めたような納得ぶりが妙にツボに入ってしまいました……その面白黒人枠がやたらハイスペックなのがまた。

そして、形こそ全然違うけれども、確かにそこに存在する「家族の絆」というものに、思わず胸が熱くなりました。
職人気質で何処までも不器用で。でも、とっても温かくて。そんな父親をきちんと理解して愛している凛子と、どこまでも優しくて強い「父親」であるダディと。その二人のやり取りが、本当に力強く響いてきます。
また、そんな前向きで真っ直ぐな凛子を支えてくれる、周りの人たちの強さがいいですね。
この「安心感」が、物語の面白さを裏打ちしてるんじゃないかなと思いました。
危うさや切迫感、は物語を彩る大切な要素だとは思うのですが。実際に、相当危うい状態にまで追い込まれるんですが。しかし、そうやってぐらぐらしている中でも、手をしっかり掴んでいてくれる「何か」があるからこそ夢中で楽しめるお話になっている、そんな気がしました。
設定やギミックは本当に、何度見ても荒唐無稽なのですが。だからこそ、普遍的な「つながりの力」をはっきりと感じられて、どこまでも「この人たちに任せとけば絶対大丈夫!」っていう気持ちですかっと読める、上質なエンターテインメントに酔いしれました。
ダディ、本当にいい男や……!!

ちなみに、私は個人的に境内のサルジジイが好きでした。
最初は単なる噛ませかと思ったんですが、最後までその認識は崩れないのですが(笑)。
でも、境内の生き様はとてもよい……!!
やっぱり、男たるものああでないとね! 大切なのは一対一の殴り合いだよね!


発行:クロヒス諸房
判型:文庫 180P 
頒布価格:500円
サイト:クロヒス諸房

レビュワー:青波零也