スモールトリップ/ビリケン白昼夢


 日常からふとしたきっかけで不思議な世界に迷い込む、生年たちの小さな冒険を描く短編集。
 人に見られたくないと思っている主人公「ぼく」が、不思議な世界に迷い込むkiddさんの「スモール・トリップ」、ビリケンさんに会いに行った男子高校生二人の、道頓堀の不思議な冒険を描いた水城麻衣さんの「ビリケン白昼夢」の二編を収録。

 収録作「スモールトリップ」「ビリケン白昼夢」の2作とも、ふとしたきっかけで、不思議な世界に迷い込み、「何か」を探す少年たちの冒険が描かれている。
 ふと路地を曲がったらそちら側の世界に入り込んでしまうような、陸続きの非現実感がおもしろい。気がついたら、いつもの帰り道から、誰も知らない世界に迷い込んでいるかもしれない――人は誰しもそんな空想をしたことがあるだろう――誰も知らない世界にたった一人迷い込むという冒険は、何ともいえぬ孤独を呼び覚ます。この作品にはそういう寂しさがつきまとう。

 特に水城さんの「ビリケン白昼夢」は、そのシュールな設定に、まるでダリやキリコの絵のような孤独感が表れているのだ。ビリケンさんに願いを叶えてもらうために、修学旅行を抜け出して通天閣へ向かう高校生の主人公二人。彼らはいつの間にか、誰もいない、現実にはない不思議な「ミナミ」を冒険することになるのである。
 レビュワーのお気に入りは階段教室のビリケン会議のシーン。コミカルだがシュールで、どことなく背中が寒い。その雰囲気はまさにあの可愛いのになんだか不気味なビリケンさんそのもの。明け方の眠りの浅い夢の中を冒険するような辻褄のあわなさも独特で、とにかく巧い作品である。


発行:Mizkid
判型:B6 58P 
頒布価格:300円
サイト:Mizkid

レビュワー:唐橋史