夜に舞う、淡き燐光の白い花びら


少年が挑むのは王位継承の儀。それは『彩華』を見つけるというもの。誰ひとり知らない花を探して、少年は水鏡の中へと沈んでいく。そこで少年が見たものは――。
(ブクログのパブーより引用)

 架空の東アジアの古代王朝を舞台にした、いわゆる中華ファンタジーである。本作品は短い作品でありながら、舞台設定(国家観・政治制度)などが過不足ない描写で示されていて、くどさを感じさせず、ファンタジーとして非常にスムーズだ。
 主人公は現実世界と「水鏡」の向こうという異世界を行き来し、その上、過去と未来をも行き来する。時間と場所が混線し、時系列もあえてずらしてあるため、決して読みやすい文章とはいえないが、まさにこの設定こそ、この作品の醍醐味といえるだろう。夢と現実を行き来する作風は、まるで荘子の世界だった。逍遙に遊ぶような、茫洋とした恍惚がある。仙界を迷うような読後感だ。
 装丁のセンスも良い。作品の内容を端的に表したデザインで、作者の中で世界観が確立している証拠だろう。


発行:片足靴屋/Sheagh sidhe
判型:文庫 50P
頒布価格: 300円
サイト:片足靴屋/Sheagh sidhe

レビュワー:唐橋史