ホテル惺明館のお客様


 高級ホテル惺明館に不思議なお客が来館する。そのお客の要望に応えていくうちに、惺明館は変わっていく。オーナーとオーナーを取巻く人々の物語。
(創作文芸見本誌会場HappyReadingより引用)

 本作はいうなれば「素敵な国の素敵な物語」である。舞台は、ほんのちょっぴり魔法や魔族の存在する架空の国にある高級ホテル惺明館。主人公であるオーナーと彼にまつわる人々の不思議な群像劇である。
 本作は人の良心や善意を、大いに賛美した作品だ。作者さん自身は「お説教くさい」と謙遜なさっているが、そのようなおしつけがましさはなく「善意の寓話」として、ロマンチックな気分で読むことができる。O・ヘンリーの『賢者の贈り物』や、O・ワイルドの『幸福な王子』を彷彿とさせる、心暖まるファンタジーだ。
 物語の鍵を握る不思議なお客様「クウリン」の存在感が素晴らしい。ロマンチックであると同時にミステリアスで、その謎解きが物語を牽引している。クウリンに導かれるようにして一気に読むことができる作品だ。
 なお、本の杜4で無料配布されたアンソロジー『断片集』には、本作のスピンオフにあたる「青のティーカップ」が掲載されている。ぜひこちらも併せてどうぞ。


発行:Natural Maker
判型: A5 36P 
頒布価格: 200円
サイト:Natural Maker

レビュワー:唐橋史