双子の夜と魔女の生贄


 魔女の加護を受ける〈ネクタルの一族〉で生まれ育った双子は、〈大人〉になる前にどちらかが魔女の生贄に捧げられるさだめ。双子の妹・ユイは姉のために生贄になる覚悟を決めていた。しかし、流星群の夜に出会ったふしぎな旅人・ハヤが、ユイの心を変えていく……。双子の一族に囚われたハヤの真意とは?
 13歳の少女たちが紡ぐ、ひと夏の成長物語。
(サークルサイトより転載)

 魔女の血を受け継ぐ一族の掟として、片割れが「魔女の生贄」として死ぬ運命にある双子のアイとユイ、そして、同じように生贄として連れてこられた「外の人間」である青年ハヤが織りなすファンタジー。
 今まで、自分たちが生きていくために「生贄」を捧げることを疑問にも思っていなかった少女二人が、ハヤとの交流を通して、少しずつ自分たちの置かれている世界の歪さを理解していく過程が丁寧に描かれていきます。
 二人を包む世界は、双子自身がそれに気づいた途端、残酷さを露わにします。けれど、囚われの身でありながら、涼やかな風のようなハヤに導かれて紡がれる双子の物語は、あたたかな空気に包まれていました。
 そして、双子は戸惑いながらも、自分たちの前に現れたものを見つめ、自分たちで考えながら、自分の立っている位置を、自分自身の「本音」を確かめていくのです。
 悩んでも、恐怖しても、醜い感情に囚われても、それでもいつかは、前へ一歩進んでいける、と。そういう前向きな心を信じさせてくれる優しさに満ちた、お話です。
 また、全容は明らかにされていませんが、ハヤや双子の前に現れる者たちが語る世界の構造に、思わずドキッとしてしまいました。土と砂と水の香りがするファンタジーと思って読んでいたのですが、まさかの言葉がちらほら。「彼ら」の目から見た世界は、どう見えているのでしょう。わくわくが止まりません。
 鮮やかに描かれる幻想世界と、軽やかで優しい雰囲気が見事に溶け合う、素敵なお話でした。


発行:かぶ☆けん
判型:文庫 340P
頒布価格:1300円 / イベント売り1100
サイト:かぶ☆えき

レビュワー:青波零也