猫の手、貸します。ねんねこ商會


猫の気持ちが分かるのは、お兄さんも猫だから?

猫神社にある駄菓子屋ねんねこ商會では、困った人に『猫の手』を貸している。
『猫の手』こと昴が受けた依頼は猫探し。
しかし夜の町で昴が目撃したのは巨大な白蛇だった。
町に流れる怪異の噂、まとわりつく白い蝶に、不可思議な神社の関係者たち。
果たして昴は依頼を果たすことができるのか。
(著作者サイトより転載)

神社の片隅にある駄菓子屋を間借りし、困った人へ「猫の手」をさしのべる主人公、昴。若輩ながら懸命に依頼をこなす昴と、神社を訪れるさまざまな人たちの物語。
こう書くと一見してほのぼのとした日常もののようだが、序盤から蛇に襲われたり秘密めいた人物が次々現れたりと、物語世界へグイっと引きこまれる。猫や神社という雰囲気に織りなされる優しさに包まれながらも、謎が次々と畳みかけられていく。先が気になってしかたがなくなり、後半になるにつれてページを繰る手がもどかしくなった。序盤のゆったりした流れから個々の謎や伏線を巻きこみつつ加速し、一気にラストへとなだれこんでいく構成の見事さは、さすが著者というべきだろう。
登場人物も多彩でありながら無駄がなく、個々の人となりが輝くようだった。主人公の昴はどこか頼りないが健気で、罠に陥りながらも人の役に立とうと奮闘する姿にはハラハラさせられたし、行方不明になった猫を探す少年や、彼に肩入れする少女の頑張りようにも、自分のことのようにドキドキしたりしんみりとした気持ちになったりと忙しかった。主人公やその周囲の人々だけでなく、敵と目される人物にもミステリアスな魅力があって憎みきれない。
そこも著者の計算なのか、ラストも上手い具合に腑に落ち、爽快だった。読み進めるにつれて明らかになっていく昴の秘密にも、驚きだけでなく、謎や描写が物語で掘り下げられていたからこその深い感動がともなった。
猫を愛し、猫から愛される、こんな神社が本当にあったらいいのにと思う。
主人公の成長譚としても、猫をめぐる群像劇としても、古風で雅な雰囲気を楽しむにしても、もちろん猫の愛らしさを味わうにも良質な、おすすめの一作。


発行:夜光採園
判型:B6 108P
頒布価格:600円
サイト:夜光採園

レビュワー:ヨード卵