絶対移動中vol.14「マヨイトあけて」


異界への扉は日常のそこかしこに潜んでいます。異界へ迷い込む秘密の扉「マヨイト」を開けてしまったら…。久しぶりの創作競作企画、14名参加で100ページ超、内容充実の異界特集号です。

(文フリWEBカタログより転載)

冒頭から中盤、伊藤鳥子さんまでの並び順でちょっと持ってかれそうになって(笑)、こらすごいぞって思った。合同誌での並び順、大事。
ちょっとここのは個別に感想を書かせてください。

宵町めめさん。映画の予告編のような、導入部のような。来るぞ来るぞって感じで読みました。どう書いてもネタバレっぽくなるのでこの程度ですみません。

加楽幽明さん。一つ前が予告編だとしたら、こっちは導入の部分かな。静かな文体が「マヨイト」という全体のテーマへの道案内になっているような感じがしました。

涌井学さん。どこかで本当にこういうことがありそう。彼がでられなくなった理由がいっさい書いていないような気がしたけれど、あんまり気にはならなかった。引きこもることそのものには理由なんかないのかも(彼に限らず)。これは感想でもなんでもないんだけど、彼女はとっとと見切りをつければよかったんだよ、というあたりがマヨイトなんだよなぁ。

高橋百三さん。これも俺が感想を書くとどう書いてもネタバレっぽくなる? 母と入生田さんてそれだけの関係だったのかな。ってちょっと思った。書いてあるだけの関係だったとしてもでもやっぱり、うーん。

伊藤なむあひさんはまだ二つしか読んでないけど、丁寧に書いてるなあって思った。イマジナリーフレンドを持つ文学少年少女は読んでいてやばいと思ったことでしょう。ときどき自分の頭の中の話に支配されそうにならないですか? アウトプット先がないとインプットばかりでは増築されるだけの世界に連れて行かれてしまうのではないかな。そのうえで敢えて言うと、途中、主人公が家を飛び出すところだけちょっと唐突だったかも。ただ、ラストはあれしかないよなぁ、って思った。そうすることでしか終わらせられない物語。永遠に続くはずの。

伊藤鳥子さんのは主人公はずるいというか優柔不断というか幼いというか、決められないまま来ちゃったんだろうなぁ。それがここにきて具現化しちゃったのかもしれない。僕には焦れったくて「お前はっきりせーよ」って思ったんですが(笑)、ま、それが人間てもんなんですけど。

三糸ひかりさん。お話がとても不思議でした。なんかイギリスっぽいなと思ったら、作者はスコットランドの方なんですね。なるほど。翻訳の解説をとても興味深く読みました。そこらへんの教養がないので、授業を聞くような感じで。

業平心さん。SFとしては面白い題材だと思います。っていうか僕は面白く読めました。わかりづらいという意見も見られますが、僕は必要な情報が少ないというか、あらかじめ共有していないといけない前提が多すぎるんじゃないかと思いました。話さなくても知ってるでしょ、っていうやつです。短縮された用語とかも、もうちょっとほんのちょっと説明があったらわかりやすかったのにって。反面、同じものを描写しているのに表現がぶれているために同定しづらいというところがあってそこがわかりづらい遠因になっているのではないかと思いました。イラストも込みで世界を作っているのに勿体ない。今度僕にもイラストかいてください(なにを言っている)。

秋山真琴さん。読み進めていくうちに、あれ、設定変わってない?って思ったのですが、そういうことでした。マスカレイドで、カレイドスコープ。それぞれの思惑、それぞれの(誰にも知られていない)立ち位置。勇者(?)が一番哀れで滑稽に見えるのもそれはそういうことなのでしょう。

radicalOtaさん。ジャパニーズサイケデリック。(って勝手に思った。こういうのの知識のない自分。)

蜜蜂いづるさん。賛否両論なのかなぁ。出てくる名前とか団体とかそういうの全部切り離すと、メタ小説(って言っていいんだよなぁ)としてはものすごい面白いと思ったんだけどなぁ。ヨーヨーが手元に戻りつつまたすぐに手を離れてあっちこちに舞うように行ったりきたりしつつするさまが面白いと思います。遊園地のミラーハウスで迷ったみたいなかんじなのかなぁ。

有村行人さん。現代版お伽噺のような。長く続いた夢のような、なんだろうなぁ。言葉にならないのですが、これすごい好きでした。手術をしないのにアルジャーノンと同じ経験をしてるみたいな(?)。最後が前向きでよかった。

よしくによしさん。普段こういうの近寄らないんですけど、妙に気になる。絵柄? もしかしてこれが俺にとってのマヨイトか?

くりまるさん。全体を一つの作品とすると、これは素敵なエピローグ的存在。暗黒舞踊ってあの暗黒舞踊だよなぁって思いながら。これ言葉だけで説明するのって大変だと思うんですけど、細かい描写でクリアしている。しかもうざったくない(笑)。細かい描写が苦手な僕はうらやましいと思いました。


発行:絶対移動中
判型:A5 144P
頒布価格:500円
サイト:適当に遠くまで来た渡り鳥
レビュワー:添嶋譲