庭には


アンソロジー形式の合同誌、第5弾。
ある通りに面した庭を持つ家々。誰の庭には何があるのか。執筆者は星野真奈美、文野華影、ひじき。

(サークルサイトより転載)

このサークルが私のお気に入りである理由に、本ごとにあるお題が非常にユニークで独創的な点があげられます。
その中でも一番「そうきたか!」と思わせられたのが上記の本。
「庭には」の文字とシャベルの写真。そんな表紙を見た所で、首をかしげてしまうことでしょう。
目次を読んで、やっと理解できます。
この文芸誌は、「庭には」に続く文を考え、その文を自分のお題にするという、執筆者の発想一つで各々の得意な方向にもっていけるもの。
実際作品のタイトルも目次を見たとおり、奇抜なタイトルが並んでおります。
その上、目次には「庭にはに続く文を次の4つから選びなさい」とあるのに、
4つめがあとがきだったりするセンスも大好きです。
そういえば、「庭には」の一年前に発行された「ふしぎごと7つ月の森学園にて」でも
7不思議の一つがあとがきになっていました。
(もっとも、あとがき含めても5つしか見当たらないのですが・・・・・・気のせいかも)

他に、このサークルの出す文芸誌の特徴に、
・おぼろげながら世界観が全て繋がっているように感じられる。
・リアリティのある現代が舞台であることが多いが、不思議な要素も自然に溶け込んでいる。
などが挙げられます。
たとえば、「かまこやもり」。
これは多分初出が「三日月幻想博物誌」で掲載された想像上の生き物なのですが、
この先の本、他の作者の手でちょこちょこ出てきます。謎のやもりです。
他にも有り得ない存在があたかも当然居るように出てきます。
尻尾食べられます。
食べてみたい。

で、この「庭には」には3つ短編が載っています(あとがきも入れれば4つ?)。
まず一つ目、「にわにわとりがいる」
早口言葉そのままですが、タイトルだけだと全然作品の内容がわかりませんね。
読んでみると、丹羽という人が庭に来る、という単純な話・・・・・・だったりしません。
丹羽さんが小人です。小人との小さな恋の話です。
尚、3つめの作品の筆者・星野真奈美さんの大ファンな方も、順序を飛ばさずこの話から読むことを推奨します。

次に3作品中最も短い「秘密がある」。
これは主人公が姉に語りかけている歌のような物語ですが、姉も主人公も不特定な存在です(?)
これは私が読み足りないのが原因だとは思いますが、それでも、姉を慕う気持ちは十分すぎるほど伝わる作品です。
歪んでいるようで淀みない愛の形、そのどれか。

最後。「誰かになにかを伝えたい魂があるのです」。
この筆者さんは私が知る限り、文芸誌の半分を使う程がっつり書きます。内容も濃いです。
主人公二人、いとこ同士が手に入れた庭をどうこうする話です。
この二人の性格が非常に対照的で、特に男のような喋り方をする美咲が映えます。
かといって片方の男の子も空気にならず、しっかりキャラを魅せてくれます。
途中展開に波乱もありますし、驚かされる場面もあって、盛り沢山です。
大団円でもバッドエンドでもない最後ですが、それでも読み終わったとき、この終わり方はいいよね、と思えるでしょう。

因みに、「海に寄り道」という文芸誌でも「美咲」という女の子が出てきます。
そのときの話が、上の話を補完しているように思えてなりません。
気になる方はチェックを。

このサークルの他の文芸誌も、個性際立つ作品とお題ぞろい。
存分にSF(そうとうふしぎ)を堪能できることでしょう。


発行:三日月パンと星降るふくろう
判型:A5 100P 
頒布価格:300円
サイト:三日月パンと星降るふくろう
レビュワー:こくまろ