鉱石展示室(3)


《きらきら あります》
琥珀糖専門店ジオードの扉にそう書かれた黒板がかかっていれば営業中。
一風変った琥珀糖を作る琥太郎の店には、
ニ風も三風も変った客が今日も訪れる。
地学マニアに、シャイな女子高生、恋するご隠居…
琥太郎とジオードに来店する客のささやかで温かな交流を描く短編集。

(サイトより転載)

 琥珀糖、という菓子の存在をこの物語で初めて知り、またこの本を購入した際に実際に食す機会も与えてもらえましたが、丁寧に作られ、鮮やかな色の中に優しい甘さをもたらす素敵なお菓子でした。
 この物語は、そんな琥珀糖を中心にして紡がれてゆくお話です。
 「きらきら、あります」という看板を掲げ、一つ一つ、鉱石の名前とその特徴を与えられた琥珀糖を専門に扱う店『ジオード』を営む菓子職人の今市琥太郎と、彼の店に訪れる人々が、ひとつひとつの琥珀糖を巡る物語を紡いでいきます。
 店に訪れる客たちは、それぞれの事情を抱えて琥珀糖を求め、時にはその店自体を目的として『ジオード』にやってきます。そうして琥太郎と接する彼らの物語は、どれもがとても優しく、きらきら光る明るさに満ちた物語です。
 また、一つ一つの物語は独立していますが、彼らが求めた琥珀糖や、琥太郎とのやり取りを通して客同士の間にある関係性が垣間見えるのです。店での出来事だけでは見えてこなかった彼らの物語が少しずつ明らかにされていく過程が、彼らがその場所に「生きている」実感、生活の痕跡、息遣いのようなものを与えてくれます。
 そして、この本に描かれているのは『ジオード』を訪れる客である「彼ら」一人ひとりの物語ですが、この本そのものは店主である琥太郎の物語でもあります。プロローグで、琥太郎が『ジオード』という言葉を知り、また琥珀糖を作るきっかけとなった出来事が語られますが、その出来事が物語の通奏低音として流れてゆき、そして最後の「出会い」に繋がった瞬間には、ぎゅっと胸が締め付けられるような思いがしました。
 本のつくり、言葉の選び方、そして紡がれて、繋がってゆく物語。その一つ一つが、繊細かつ優しい手つきで丁寧に作りあげられた、まさしく琥珀糖そのものを思わせる、甘く優しく、そしてきらきらとした輝きに満ちたお話でした。


発行:琥珀舎
判型:文庫 130P 
頒布価格:500円
サイト:琥珀舎
レビュワー:青波零也