きつねのよめいり


 田園の中に、旧い家々と雑木林の丘陵が点在する田舎町。
 中学校からの帰り道、田野倉みずきはぽつりと頬に触れる水の気配を感じる。
「あれ?」
 眼鏡の奥のどんぐりまなこをきょとんと見開いたみずきに、隣を歩いていた近野さゆりが、首をかしげながらこちらに顔を向けた。
「どうしたの?」
「あ、うん――なんか、いま、ほっぺたにぽつって――
 うー……蝉のおしっことかだったらやだなあ……と頬をさするみずき。
 だが、急に強く降り始めた雨に、ふたりは雑木林の中に続く稲荷神社の石段を駆けあがる。
 夕陽がさしたままの空からきらめくシャワーのように降り注ぐ、お天気雨――きつねのよめいり。
 神社のお社の裏で雨宿りをしたみずきたちを待つ、ちょっと不思議な黄昏の時間。
 田舎町を舞台に、女子中学生ふたりを主人公にしたふんわり百合短編。

※サークル公式サイトより抜粋

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みのり二人


 寒い大雪の日。体調を崩したみのりが学校を早退してくると、母親がいるはずの家には鍵がかかり、なぜか雨戸まで閉められていた。
 通りがかったお姉さんに助けられて、みのりはお姉さんのアパートに落ち着く。
「それよりさ、その『お姉さん』って呼び方、何かやだな…私、みのりって言うの。みのりでいいよ」
「ええ?!………私も、『みのり』なんです。ホントです」
 同じ「みのり」という名前で、顔もみのりに似たお姉さん。初めて会うその彼女は、みのりの趣味や、誰にも言っていないはずの悩みを次々に言い当ててくる…。
 思わぬラストが待つ、心温まるSF短編。

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