【ライトノベル】【現代】嫌犬

テキレボ日本地図 ヒロイン枠の男を探せ!

文庫判(A6)/128ページ
インドの仕立て屋さん
藤和
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¥ 500 税込

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高等遊民の青年と、ちょっと嫌な感じの喋る犬が織り成すハートフルストーリー。
色々な人に振り回されつつ、迎える結末とは
表紙イラストは白井萩様作です。

文庫版 128ページ

傾向:現代日常、SF(すこしふしぎ)、動物

--本文サンプル--


西暦二〇〇六年地球。


地球と言っても『ちきゅう』と読んではいけない。地球は『ちたま』と呼ばれる星で、 地球が浮いている銀河系の双子銀河にある双子星である。



 大日本帝國の首都、東京で一人暮らしをしている青年新橋悠希は、最近増えつつあり、 社会問題にもなっているニートの一人。

そんな悠希と共に生活をしている者が居た。

「おい悠希、ネットばっかやってねぇで飯くれよ。」

二足歩行で歩き、人間語をペラペラ喋る犬が、だるそうに煙草の煙を口から吐き出しながら言う。

「かっ…鎌谷くん!

ウチの中で歩き煙草するのやめてよ!」

自分の何分の一位しかない犬、鎌谷に、悠希は怯えながら注意を促す。

それが聞こえているのか、鎌谷はこたつに入り、煙草の灰を灰皿に落とした。

「心配すんなって。

俺が火ぃ落として小火でも起こすとでも思ってんのか?」

「だって、だって、鎌谷くんの歩き煙草で、僕の服が何着も焦げちゃったじゃん!

お祖父ちゃんが着なくなった着物くれたから何とかなってるけど…」

「細かい事気にすんなよ。何とかなってんなら良いじゃねーか。

で、飯は?早くしろよ。」

鎌谷に急かされ犬缶を開けている悠希の服装は、 彼が言った様に着物に袴と言った古風な出で立ち。

クリーム色の壁紙が貼られ、パソコンラックが置かれている部屋と合わせると、 何ともちぐはぐな感じがする。

皿に盛りつけた犬缶をこたつの上に置き、悠希は冷蔵庫の中から取り出した缶ジュースを振って、 口を付ける。

その様子を見た鎌谷が、鼻に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔をして悠希に言った。

「いつも思うんだけどよ、良くそんなモン飲めるな。

うぇっ。臭いだけで吐き気するわ俺。」

「料理したり買い物したりするより楽だし。

それにもう慣れたよ。」

悠希が飲んでいるのは乳脂肪分を主成分とした栄養剤だ。

鎌谷曰く、人知を超えた味。

初めの内は悠希も飲んだ後、すぐに口をすすいでいたが、今ではもう慣れた物。

一気に飲み干して段ボール箱の中に収めた。



 或る金曜日、悠希は二週間に一度通っている病院から家に帰るなり、 何やら封筒を取り出して溜息をつく。

「何だ、また先生に軽くあしらわれたか?」

「そんな事無いよ。今日は障害者年金の申請するのに診断書貰ってきたんだよ。」

「へー、なんて診断されたんだか。」

「統合失調症。

一昨年の申請の時は抑鬱だったのに…鬱だ…」

悠希が貰ってきた診断書は、精神障害者年金を申請する為に、区役所に提出する物だ。

現在悠希の障害レベルは二級。

今では医者から就業する事を止められている。

ポニーテールに結っていた髪の毛を解き、万年床に寝転がる悠希に、 こたつに入った鎌谷が煙草を吹かしながら言う。

「まあ、何だ。

とりあえずそう言う事にしとけばカドが立たねぇんじゃねぇの?

精神疾患なんて複雑すぎて、複数の病名が当てはまる事の方が多いしよ。」

暫く無言の時間が過ぎる。

やがて、布団に潜り込んでしまった悠希の口から、何やら呟きが聞こえてきた。

「やっぱり僕ダメなんだ……学校卒業しても就職してないし……

ダメ人間なんだぁ……」

悠希がこうやって落ち込むのもいつもの事なので、鎌谷は何も言わずに煙草の煙を吐き出す。

ふと、にぎやかなメロディーが聞こえて来た。

その音を耳にするやいなや、悠希は布団から跳ね上がり、 まだ薬が詰まっている鞄の中を漁り出す。

「もしもし。あ、恵美さん?」

何とか取り出した携帯電話に悠希が出る。

「ごめんね、先月お金無くて行けなかったんだよ。

…ああ、うん、明日辺り行こうかなって思ってる。…うん、じゃあね。」

今回の電話の相手の恵美さんと言うのは、本名山田恵美。銀座にあるお茶屋さんの店長で、 台湾自治区出身の人だ。

とても気さくな人で、落ち込みやすい悠希の事を気に掛けている。

香港自治区から大日本帝國に渡り、子供と二人で生活をしている未亡人である恵美を、 鎌谷はいたく気に入っている。

「明日恵美さんち行くんだったら俺も行きてぇな。何時頃にするよ。」

「何時って言われても、結構遅くまでやってるから、起きた時間によりかな?」

「じゃあ今日は早寝しないとな。

開店前に行って恵美さんの着替えシーンを堪能せんと。」

「なっ!何言ってんの!犯罪だよ!」

「俺犬だから大丈夫。」

恵美の経営する台湾茶屋に、店員は恵美一人しか居ない。

だから、制服という名のチャイナ服に着替えるのは、奥の台所で済ませているのだ。

「チャイナ服萌え~。」

嫌な笑いをこぼす鎌谷を見て、悠希は明日ゆっくり起きようと心に誓うのだった。