うさみみ少年を題材にしたアンソロジーです。
著者は、青川有子、高槻玲、むらさき、もったり、ユツバ浩、ゆん、ヨサキクモ(敬称略/五十音順)の7人です。5本の小説とマンガとイラストが入っています。
(発行者様サイトより転載)
ケモミミショt…少年――その属性が世に広まってから長いものです。
つまりは少年の頭に、獣の耳が生えているのであります。
少し想像してみてください。
獣の耳、と、お聞きになって思い浮かぶのはなんですか?
猫耳? 犬耳? いや、狼も捨てがたい。ヤギなんてのもなかなか…。
そんな迷えるあなたに喝を入れる――それがこの『うさしょ!』です!
本アンソロジーの趣旨は極めて明快。
「USAMIMI BOY IS THE BEST!!!」
ツンデレから健気天然デレデレと、幅広い守備範囲を誇るうさみみ少年の魅力。
…いや、正直こんな奥深いとは思ってなかったですわ…。
七人の作家様によるそれぞれのうさみみ少年、ぜひご堪能ください!
(以下、敬称略・掲載順にて失礼します)
『さみしくても、死なない』 青川有子
森の魔女に生き返らされ、人間になったうさぎの少年の童話めいた物語。
冒頭には魔女とうさぎ少年と友に暮らす犬耳・猫耳・あとなんか白い少年も出てきますが、そこは『うさしょ!』。うさみみ少年が勿論倍プッシュされます。
あることがきっかけで、うさぎ少年が一人森をさまよっているとひとりの女の子と出会います。彼女はなんと“天使”で、あるものをなくしてしまい、帰れないのだと言います。そこでうさぎ少年は彼女と一緒に失くし物を探すことになるのですが…。
うさぎ少年が森を一人さまよわなきゃならなくなった理由がなかなかにえげつねぇなぁと思いながら、そんなことには無頓着に天使と一緒に失くし物を探す彼の姿は胸を打たれます。そして失くし物が見つかった後、天使と別れる時にうさぎ少年はあることに気がつくのですが、そのシーンがせつなくもすっと透き通るようにうつくしく、すごく印象的でした。
見た目の愛らしさにとどまらず、“うさみみ少年”のもつメンタル的な属性のポテンシャルをありありと堪能できる一作です。うさぎ少年の一人称で語られる、幼くも柔らかい文体も素敵。最後の一文とタイトルがつながるのは、いい意味でぞくりとさせられました。お子さんにも是非読んで頂きたいです。
『ある肉屋の手記』 ヨサキクモ
タイトル通り、肉屋の主人の日記という形式をとった短編。
肉屋の二階を貸している魔術師が、たまった家賃の代わりにと差し出してきたのはうさ耳をつけた人造少年。結果的に居候が増えることになった主人の苦悩がほろりと滲みながら、奇妙な共同生活が営まれていく様が描かれます。
淡々と、しかし軽妙な語り口で進んでいく少しブラックな物語。個人的には一番すきです。ポイントは何と言っても、肉屋×うさみみ少年という、なんともスリリングな組み合わせ(しかも最初はガチで食べられるために供せられた少年である)。主人の持った包丁に怯えるうさみみ少年など、なにそれおいsゲフゲフ細かいところの描写が絶妙です。
居候になり、店で働き、学校にまで通うことになるうさぎ少年の成長も描かれています。この短さがよいのですが、それゆえに続編が読みたいなぁと贅沢千万な気持ちに。
『ウサギは穴を掘るのがお好き』 高槻玲
色々こじらせてしまってついにはストーカー行為にまで及ぶうさみみ少年 VS そんな少年にバイト先まで追っかけられてどないしたらええねんな元家庭教師の大学生の主人公(※♂)。と書くとラノベっぽいですが、文体は文学的で落ち着いています。
最初はしおらしいうさみみ少年が、主人公に追い詰められて徐々に本性を表していき、ラストでは腹黒さ100%に。ただそこで終わりなので、欲を言えば黒さ全開とあくまでも突っぱねる主人公のやりとりもみてみたかったなぁ、と。
「そもそも兎自体十分危険な存在だったのではないか。臆病であるが故に凶暴で、性欲が旺盛で、足が速い。とんと腑抜けた人間に成り果てた己が、どんな方法で逃げれば好いか」(本文より)とあるように、かわいいだけじゃない兎の一面にスポットを当てた、うさみみ少年の懐深さに唸らされる一作です。
『花は咲く』 ユツバ浩
公園のベンチで雨に打たれ落ち込んでいる主人公のもとに訪れる、不思議なうさみみ少年と神主との交流の物語。
こちらはTHE・うさぎ、ともいうべき、癒し属性満開のうさみみ少年をご堪能頂けます。主人公は深い悩みを抱える様子が描かれていますが、あえて具体的な記述はありませんので、ちょっとしんどい時に読んむと感情移入し、癒されること請け合いです。
やわらかく丁寧な描写でうさみみ少年と主人公が一緒に過ごす時間が描写され、それだけでとても心地よい読後感を味わえます。特に、うさみみ少年とともにほっこり湯船につかる(※非R18シーン)場面はこちらまでほっこりさせていただきました。心が疲れているときにはあったかいお風呂、その鉄則がありありと浮かびました。読み終わるときには主人公のように、また未来に向かって歩いて行きたくなる、そんなお話です。
『ウサミミ』 むらさき
主人公・シホが友達から受けた相談は、登山から帰ってきた弟に悪霊が取り付いている――というものでした。幽霊の見えるシホが弟に会うと、その頭にはうさ耳が。悪霊はシホに自分の子を成すことを要求し、さもなくば弟を取り殺すと言います。そんな悪霊とシホの、奇妙な関係が綴られます。
ここまでほのぼの路線が多かったので、「子、つくれ」というまさかのどストレートな要求に度肝を抜かれつつも、下品な大人なのでええやないかええやないかと読み進めていきました。すると予想以上に緊迫した物語にまたもいい意味で意表を突かれました。
決して相容れない悪霊と、人間であるシホ。当然価値観も文化も違います。あくまでも自身の要求を貫こうとする悪霊のために、シホや取り憑かれている弟くんの肉体は危険な目に遭います。悪霊のこの要求も自身の種を途絶えさせたくないという必死な本能に基づくもので、まるで容赦がありません。
そんな中でも、不思議な信頼関係を悪霊とシホが築き上げていく様子は胸に迫るものがありました。そして、ある理由でシホは悪霊の要求を絶対に叶えることができません。シホのその真実を知った時、悪霊が選ぶ結末。最後の最後までどうなるのかハラハラさせられましたが、ヒュっと潔く完結する物語は圧巻でした。物語が終わったそのあとの、幸せな未来を願わずにはいられません。
『うさみみ少年といっしょ』ゆん
『イラスト』もったり
漫画・イラストであるためここでは割愛させて頂きますが、一言述べさせていただきますと…いいですよね。あんなうさみみ少年ら2・3人召喚して家に放っておきたい。
長くなりましたが、これにて終わります。お読みになった方がうさみみ少年が持つ奥深い魅力の扉を開く、その一助になりましたら幸いです。
発行:うさみみパートナーズ(アリスチルス月面研究所)
判型:A5 86P
頒布価格:600円
サイト:アリスチルス月面研究所
レビュワー:世津路 章