背中の目(第七十八夜)

ミカン食べる?  じゃあ私もらうね。

ところで、ちょっと変なこと聞いていい?

例えば、向こうからトラックが、歩道に乗り上げながら猛スピードで走ってきてるとして、どのくらいまで運転手に期待する?

すぐ逃げる?  そうよね、他人だもん。

じゃあ、例えば私があなたに包丁を突きつけながら向かっていったとして、貴方はどこまで、私を信じてくれる?

そんなことはあり得ないし、万が一でも取り押さえるから逃げる必要なし?  そう、ありがとう。あなた強いものね。

 

そうね。聞こえれば、そっちを向ける。触れられれば、払い除けられる。そして、見えれば、考えられる。

でも……いや、だから、今まさに、貴方の背後で何が起こってるか、貴方は知らないよね。背中に目はないものね。

息を潜めて、その瞬間をずっと待ち続けてるその子の事、貴方は見えないんだわ。

とっても親しい人。何をしたのか知らないけど、すごい目つきだよ。視線、感じない?

嘘だと思うなら、見てみたら?

 

…………ひっかかったね、可愛い。

やっと、捕まえた。温かいね、命って。

ふふふ、そうね、背中に目はないものね。