第七十六夜

 ふと目が覚めた。
 見渡した自室の中は厚手のカーテン越しに街灯の灯りが漏れ入り、MDコンポのディスプレイだけが明るい。時計は午前二時十二分を示し、深夜特有の静けさが部屋を満たしていた。
 引き戸になっている部屋の入口が拳ひとつ分開いている。寝る前に閉めたはずなのに、と首を傾げていると、階下にある居間から凄まじい悲鳴が聞こえてきた。両親のものだ。
 転がるように部屋を出て向かうとそこも暗く、台所のシンク上にある蛍光灯がついているばかりだ。両親の姿は見えない。けれど、そこには血を滴らせた包丁を持つ男のシルエットがあった。
 声にならない悲鳴を上げ、僕は部屋へ駆け戻る。両親の安否どころではなかった。
 部屋に入り、引き戸を外から開けられないよう細工して布団の中に潜り込む。身体の震えが止まらない。不安と恐怖に、僕は目をぎゅっと瞑った。

 ふと目が覚めた。

「あぁ。夢だったのか……」
 心臓が早鐘を打って痛い。何度か深呼吸するうちに、現実へ戻ってきた安心感に満たされていく。
 見渡した自室の中は厚手のカーテン越しに街灯の灯りが漏れ入り、MDコンポのディスプレイだけが明るい。

 引き戸になっている部屋の入り口が拳ひとつ分開いていた。