不吉の象徴(第七十五夜)

 自殺の名所として知られるその駅周辺は、同時にカラスの生息数も多い。まるでハゲタカのように集うカラスは、救急隊員や警察の現場検証を待たずに、拾い切れなかった遺体の部位をついばもうとやってくるのだ。
 事故が発生した場合、駅員は何よりもまず先にカラスから遺体を守らなければならない。そうでなければバラバラの遺体が、更に散逸してしまうことだろう。そのように緊急時の対処マニュアルに加えられるほど、ホーム屋根に留まるカラスの数は異常だったのだ。
 このカラスという生き物は、非常に頭のいい事で知られる。味を占めた事から学習し、カラスの群れはその駅で事故が起こると、真っ先にホームの屋根や周辺に陣取るようになる。駅員が何度も追い払ううちに、群れの集う早さは増していった。
 世界中に影響を与えるほどの、酷い株価の変動があり、駅で連日飛び込み事故が発生したことがあった。その日を境に、カラスは人身事故の発生よりも早く、現場に集まるようになった。
 もしかしたら、屋外のオーロラビジョンや電光掲示板から、その日駅で起こるべき出来事を人知れず読み取っているのかも知れない。急行を待つ間、ふと見上げた対向ホームの屋根を、ところ狭しと留まるカラスの群れは、やがて起こり得る人の不幸を予感させる、まさに不吉の象徴だった。