朝起きて、いつものようにうがいをした。水道水と唾液が混じったものを吐き出すと、それは音をたて渦を描き排水口に吸い込まれていく。その中に一瞬、何か赤いものが見えた。口でも切っただろうか。そう思い鏡で口内を確認してみるもそれらしき傷は見当たらない。試しにもう一度。汚いかなと思いつつも、今度はマグカップの中へ吐き出してみることにした。さっきよりも多くの水を口に含み逆回転の映像のように元に戻すと、ああ、確かに赤いものが。それはわたしの小指の先ほどもない小さな赤い魚で、ステンレスの円柱の内側でゆっくりと泳いでいる。金魚のようにも見えるがよく分からない。わたしはそれに『血液』と名前をつけ飼ってみることにした。血液は眠らなかった。血液は食べなかった。血液は排泄をしなかった。ただ血液の体は日ごとに大きくなっていったし、それに比例するようにわたしは血液に愛着を感じるようになっていった。ところで最近、わたしの貧血が酷くなってきている。わたしはため息をつく。残念ながら、血液はもうわたしの口の中に入る大きさではないのだ。テーブルの上には小振りの鍋の中で無邪気に泳ぐ血液。台所に立ち、わたしはずっと思案している。