【星空の呼び声】(第四十八夜)

 ああ、こんばんは。気持ちのいい夜ですな。雲一つない、本当に吸い込まれそうな星空だ。
 ……今日はやけに楽しそうだって? そうですかい。まぁ、ちょいとわけがあるんです。
 いやね、つい先月の話なんですがね。あの日も、こんな風に雲一つない、月の無い晩でした。
 私はまぁ、こうして夜うろつきまわるのが癖になっているもんで。こんななりですと、絡まれることも二度や三度じゃなくてね。
 で、まぁ先月も若ぇのに囲まれちまったんです。
こりゃあ、また青タンくらい覚悟しなきゃな、と思ってたら、
「声が聞こえる! 母さんのところに帰らなきゃ! 呼ばれてるんだ!」
 って、私の肩をゆさぶりながら言うんです。
そのあとに、外国語ですかね、ごちゃごちゃ何かつぶやいてるんですよ。こんな感じだったかな。
 ……聞きましたね? じゃあ続きを。
 ああ、こりゃあ相当飲んだんだな、と思った矢先です。
 消えちまったんですよ。そいつが。
 何が起こったのか。二人目でようやく気が付きました。
 ものすごい勢いで、飛んでいったんです。空に落ちていくっていうのは、まさにあんなことを言うんでしょうねぇ。そのまま、また一人、また一人、と、例のごちゃごちゃを言いながら、そうです、吸い込まれていったんですよ。満天の星空にね。
 ……お分かりですかね。私も、呼ばれてるんですよ。
 来月の今頃、新月の晩になると、あなたにも聞こえてくると思いますよ。とても優しくて心地よい、母さんの呼び声がね。で、どうしても帰りたくて仕方なくなる。
その時に、誰でもいい。さっきのごちゃごちゃを、誰かに聞かせてください。
大丈夫。その時が来りゃあ、勝手に思い出しますよ。

 じゃあ、お先に。