残酷に、あくまで残酷に、彼女の頭皮はズルりと剥げ落ちた。
長い長い腰まで届く黒髪が、自律意識を伴って蛇になる。蛇を生んだ彼女は、もう、死んだ。ただ、黒髪の蛇が残った。その蛇も、するるとどこかに行ってしまった。
仕方がないので僕は見なかったことにして彼女の家を去った。
帰り道、蛇はどこに行ったのかが気になっていた。
そうして、答えは実に簡単に現れた。
帰宅して、手を洗おうと流し台の蛇口をひねると、湿った黒髪の蛇が流れ出て来た。冗談ではない。蛇はその身を無数の髪毛に分解して、僕の両手に絡まった。その手触りはとってもざららとしていて、例えば砂の繊維があったらこんな感じだろう。
そんなことを考えられるのであれば、僕は大丈夫なのだろう。
蛇はじゃれつくように僕の体に絡まって来た。無数の黒糸が上半身を覆って、西洋の蛮族よろしく毛むくじゃらになった僕はどうすればいいのか解らず、取り敢えずこの蛇をなくそうと電気髭剃を手に取った。
それが蛇の逆鱗に触れたらしい。豊かな髪毛が僕の皮膚に喰い込んで来る。真っ先に両手が機能しなくなり、振りほどこうとしてこけた僕に蛇体は首吊りをさせた。
そうして僕は縊死体に……