僕が本屋のバイトを始めて二年目くらいのときに、新人のアルバイトが入ってきた。新人とはいっても三十台後半くらいだろうか。仕事の覚えはとても早いとは言えなかったが、無駄話もせず黙々と働く彼の職場での評判はなかなか良かった。ある大雨の日、普段は他の誰かと一緒に休憩にはいることなんてないのだけれど、その日はお客さんが全然いないこともあって僕とその新人の男の人が一緒に休憩に行くことになった。狭い休憩室で、特に話すこともなくお互いが売り場から持ってきた本を読むというその空気に耐えられなくなった僕は思い切って彼に話しかけることにした。
「あの、いつも一生懸命働いてるってみんな褒めてますよ」
年上だということもあって変に気を遣ってしまった不自然な僕の言葉に、彼は本から顔をあげ「ああ」と言って表情を崩さずこう続けた。
「本棚があるだろ?そこにびっちり本が並んでいる。けれど誰かが本を買う。本屋だから。すると隙間ができる。そこから見られてるんだよ。ちゃんと働いてるかって。だから」
だから、で彼の話は終わり彼はまた読みかけの本に視線を落とした。
それ以来、僕は本棚に隙間が出来たら誰よりも先に本の補充をするようになった。