第八夜【その朝】

 目に見えている景色も耳に聴こえている町の音も肌に感じている風もすべて夢かもしれないと考えるクセがある。病床のぼくはもうすぐお迎えが来るなぁとぼんやりと窓から薄曇りの冴えない色の空を見上げていて最後に見舞い客と話をしたのはいつだったかなぁと数えようとしてつまらないので数えるのを止めて楽しかった頃の夢をショートフィルムのごとくうつらうつらと観ている。とっくの昔に虹の橋へ渡って行った昔の小さな毛の生えた友人たちも夢枕に立つので嗚呼また会えるんだね嬉しいねぇと微笑むとパステルカラーのナース服を着た看護婦さんが●●さんどうしたんですか今日は機嫌が良いんですねぇと声を掛けてくれてぼくはその声に曖昧に答えたり答えなかったりする。次に目覚めた時には会いたい誰かにも会えるだろうたぶんそれぐらいの希望を持つ事くらいはどうか許して欲しい。

 そんなたわいもない事がつらつらと書き綴られた古ぼけた日記を病棟の片隅で見つけた。ここに人間は入院していなかったはずなのだが。