キラキラ


 空の彼方からやってきたキラキラと出会った女の子たちのお話です。男でも女でもなく、宇宙人でも幽霊でもないキラキラが、やってきた理由とは…?
(著作者様ブログより転載)

 ジャンルは格差でなく区分だ。
 これは僕の一貫した持論で、これから先も特に曲げるつもりはない。
 だけど、たまにその区分に悩むような作品がある。これは一体どんなジャンルなんだ?
 どこに区分すればいいんだ? という作品だ。大抵そういう本を読むと、僕は悩みつつもついつい頬が緩くなってしまう。心にフックとして引っかかったということで、あれこれ本を買い漁ってもジャンルの壁を突破する作品というものにはそうそうお目にかかれないからだ。ある繋がりがご縁でたまたま『キラキラ』『ジャスティスウィンドラー』の二冊の本を頂いたのだけど、これはまさに僕にとっての幸いだった。

 『キラキラ』『ジャスティスウィンドラー』共にジャンル分けしようとすると、途端に不安になる。現代小説のようであり、ファンタジー小説のようであり、恋愛要素もあり……エンターテイメント小説、と書くのが一番すっきりするのかもしれない。読者に楽しみを提供するというジャンルがあったとしたら、多分それが一番近いんだろう。
 『キラキラ』はシーンごとに人称が変わる(人称を担当するキャラが変わる)。ある人物から見て「恵まれているな」と思う人物が、実は余人の理解が及ばない悩みを抱えていたりする。人にはそれぞれ心があり、過去があり、気持ちがある。当たり前だけど、その当たり前のことを自然に書くのは難しい。この作品のキャラ達にはそれぞれの人生、バックボーンがあり、ある人間から妬まれていたとしても、本人にとってそれが幸いなことだとは限らない──本人はこんな幸せなんて不要だと思っていることもあるし、そもそも幸せだと思っていないことすらある。
 これは多分、普通に生きていても見かけることだろう。芸能人が、全員幸せ一杯で何一つ不自由なく完璧に満たされた生活を送っているなんて、そんなことは今時誰も思っていないだろう。

 劇的な事件が起きるわけでもなく、いきなり難病に冒されてドラマティックな結論が待ち受けるでもなく、物語は一般的な人生と同じように淡々と終わる。だけどその淡々とした感覚は、どこか暖かい。冷淡ではない。突き放すではなく、常に側にある自然な感覚としての「淡々」「日常感」だ。
 だからこそ最終的にキャラ達が迎える結末はある意味妥当であり、ほんの少しの不思議であるキラキラの出現によって、少しずつ狂い始めていた歯車が、ほんの少しだけ逆行するような錯覚を起こす。あるいは、ほんの少しだけカッチリと噛み合う。救いという程大袈裟ではなく、少しだけ前向きになる。
 キラキラがいる(ある)ことによって、キャラ達は少しだけ前を向く。歩き出す。背を押したのはあくまで自分達で、タイトルにもなっているキラキラは別に何かをするわけでもない。キャラ達の中に、最初から解答は用意されている。それを思い出させ、あるいは導くことだけが、キラキラに課せられた役割だ。記号的であるとも言えるし、恐ろしく限定的な機能だとも言える。ハッピーエンドに向かわせるのではなく、それぞれのキャラが行くべき方向──そして現時点では見失っている方向──を向かせる、ほんの小さな手助けをするだけの存在。それがキャラとしてのキラキラであり、作品としての『キラキラ』だろう。

 その読後感は、何とも言えない。物足りなくもあるし、満足でもあるし──優しくもあるし、また色々作品終了後に問題が起きるのではと不安にもなる。ただこれだけの感情を呼び起こせる作品が、箸にも棒にも引っかからないということはあり得ない。読むことで何かを得る。そういう作品だ。できればこの後の登場人物達には、それぞれの道を歩んで欲しいと思わせる。
 感情移入とはまた別の意味での、共感を得られる作品だろう。

 『ジャスティスウィンドラー』に関しては、こちらはまさにプレ版といった感じだ。物語全体で言えばプロローグの場面。キャラ達が顔見せし、初顔合わせし、そして特に今は交わることなく道を分かつ。ここから先、彼らがどんな運命を共にするのか、あるいはすれ違うのか、楽しみで仕方がない。
 『キラキラ』が物語の運びそのものに重点を置かれた作品であるならば、『ジャスティス~』はキャラ達の生き方、考え方、動き方に重点が置かれた作品であるように感じた。キャラ萌えって言葉は陳腐で使いたくないのだけど、感情移入したくなるキャラ達の物語だ(個人的には春海の物語が気になる)。

 二冊に共通する、人肌のような温度が心地よかった。熱すぎず、冷たすぎず、体温と丁度同じような感覚。包まれていると安心する。読んで紅茶と茶菓子を食べて、ホッと一息をつく。日々の疲れが少しだけとれている。そういう作品だったと思う。
 『ジャスティス~』の方はEp.0ということで、これはもう次回作、次々回作があると期待してしまって良いのだろうか。春夏秋冬の物語が、常に巡る四季のように動き始めることを願って止まない。


発行:深海の記憶
判型:A5 24P  
頒布価格:300円
サイト:秋月ブログ
レビュワー:神楽坂司