円明園 中国短編小説集二


 「龍の髭」主宰の春秋梅菊さんによる古今の中国の王朝を舞台にした短編集の第二弾。
 文化大革命の狂乱の中にある民衆の姿を描いた「壇上の悪意」、唐代の長安を舞台に詩作を巡るドタバタ劇「他人に詩を見せることなかれ」、明の遺臣が紡ぐ滅亡と再起への独白「遺民記」の三作を収録。

 収録された三作品は、どれも中国を舞台にしていながら全く違う時代・場所を描き、その時代・場所に生きた普通の人々の悲喜劇を描いていて、どれも秀作揃いである。
 文化大革命の狂乱を描いた「壇上の悪意」は、いつ誰が味方になり敵になるかわからない時代の恐怖と、そんな時代を作り出してしまった「普通の人々」のあさましさが如実に描かれている。主人公が心を寄せていく女性・謝留雪の存在感は凄まじい。読者の期待を裏切るラストはまさに、文化大革命の暗部そのものだ。
 一方「他人に詩を見せることなかれ」は春秋さんの作品には珍しい喜劇だが、詩の大流行に右往左往する人々の滑稽さには、流行を鋭くえぐる風刺が効いている。
 春秋さんの短編小説には、どれも後味のピリリとした苦さがある。巧みな構成とオチはさながら、芥川龍之介の短編作品群を思わせ、間違いなく短編の名手といえるだろう。


発行:龍の髭
判型:A5 39P 
頒布価格:200円
サイト:龍の髭

レビュワー:唐橋史