おとどけ!ピザバッツ(2)


「いいから出てきてケツ食い縛んな、クソガキぁ!」

次世代ゆとり世代『マジュトリー』達の手により、
人々のモラルは崩壊しかけていた。

軽犯罪や迷惑行為が街に溢れ、ツイッターテロとそれを盾にした脅迫が横行し、
善良な市民は深く傷を負った。

内閣府対策本部は宅配飲食業界と連携し、警備機構『デリバー・ガード』事業を推進。
武装した配達ドライバー達による本業ついでのパトロールと実力行使で、
街の平和の回復に臨むが……。

言って聞かなきゃ殴って理解(ワカ)らす!
武装変形スリーターのチェイス&バトルで、己の正義を押し通せ!

これは、小さな何かを明日につなぐ為の、
ゆとり矯正ケツバット・ファンタジーである。
(作者様ブログより転載)

 正義の形とは、力とは、何だろう。

 言うこと聞かない、はた迷惑なガキども「マジュトリー」を、愛の制裁(ケツバット)を注入しぶったおす、痛快娯楽もの「おとどけ!ピザバッツ」。
 一時の自己顕示欲のために馬鹿をやるガキや、そのガキを制御できない大人たちに、ずばっと麺棒(実は少しやわらか)でおしりペンペンしちゃうケイコさん。
 トオノ作品では初の「つよいおばさん」じゃないだろうか。
 「つよいおじさん」には定評のあるトオノ作品。口の悪さとその腕力を振るい、赤鬼として恐ろしい描写をされる一方で、慈愛深い「母」の一面が垣間見られる。ただのピザババアではないことが分かると、おもいっきりそのふくよかな身体に抱きつきたくなるほどに親近感が沸くのが不思議だ。流石「頼れる大人」を書かせたら一級品である。
 もちろんおなじみの肉弾戦や、スリリングなバトル&チェイスも見逃せない。

 元マジュトリーの青年・一翔くんはそんな赤鬼に「おしおき」された内の一人。一連の事件の中、おしおき後に手に入れた「お手軽で小さな正義の力」と、なかなか無くならない軽犯罪の間で揺れ動く描写が印象的だ。
 若い内は、一度は馬鹿な迷惑行為をしようとしたり、中には実際にするものもいるだろう。
 どんなにまじめに働いていても、慣習化したルールに従って、やむを得ない選択をするときがあるだろう。
 作中に登場する駆令次くんや「まさくん」、そして他のデリバー・ガードに従事する社員たち……そして一翔くん自身。それは読み手である私の心にも、じわりと広がる黒い感情であり、まるで鏡を見ているようであった。
 皆が見ないようにしている自分の罪悪感、力を手に入れたときの高揚感、そして力を誇示し過ぎた後の後悔が伝わって苦しい。
 しかしそれでも一翔くんは、ピザバッツの赤鬼は、己の信じた道を貫いていく。それがなんとも気持ちがいい。
 読んでいた私もピザババア……もとい、赤鬼から、あの麺棒を託されたような気分にもなる。

 正義の形とは、力とは何だろう。
 そんな深いテーマを内包しつつも、読後感スッキリの痛快娯楽アクションライト「脳」ノベル「おとどけ!ピザバッツ」は、こんな世の中でふらふらと生きていく私に、愛のケツバットをお見舞いしてくれた、素敵な作品である。


発行:クロヒス諸房
判型:文庫 134P 
頒布価格:500円
サイト:クロヒス諸房
レビュワー:服部匠