~少女仙機譚~ 晴天のヴァルリッツァー上・下巻


【上巻】 文明崩壊後、人は進化し新たな力を手に入れた。仙気と呼ばれる、一種の超能力のような力は、技術の進歩とともに、万人が扱える『仙機術』となる。そして数百年、人々は仙機術を使い、文明を蘇らせていた。
 仙機術の名門、ヴァルリッツァーに生まれたイースフォウは、おちこぼれとして、親族から扱われていた。その影響か、学園の成績も芳しくなく、ついには補修授業を受けるようになってしまった。しかしそんな自分が、何をすれば良いのか、どうすれば良いのかが、イースフォウには解らなかった。
 そんなある日、同じヴァルリッツァーのエリート、スカイラインがイースフォウの前に現れる。彼女は、イースフォウに学園のイベントの模擬戦闘での勝負を持ちかける。
 勝ち目のない戦い。だがイースフォウはそれでもどうすれば良いのか迷うのみであった。

【下巻】辛くもスカイライン・ヴァルリッツァーとの戦いに勝利したイースフォウ・ヴァルリッツァー。その日から3週間の時が流れていた。イースフォウは迷っていた時にアドバイスをくれた少女に会うために、毎日夜の公園に足を運んでいた。
 しかし少女と再会するや否や、その少女がイースフォウに襲いかかってくる。少女の目的はイースフォウの所持する、とある旧文明の遺産であった。
 不法に所持している物品と言う事もあり、軍に知られる訳にはいかない。頼る者も無くイースフォウはたった一人の戦いを強いられることになるのだが……。
 イースフォウへのリベンジの為、山にこもるスカイライン。自分の大切な人の願いをかなえるために暗躍する謎の少女。イースフォウの様子を気にかける森野。今少女たち進む道が、複雑に交差する。
(作者様ブログから転載)

【戦う女の子×少年漫画的王道バトル×父娘の系譜】
 
「晴天のヴァルリッツァー」は、少年漫画の王道であるバトルものと親子ものを、これまた本気で女の子を主人公にしてつむがれた物語。
 「名門の落ちこぼれ」「曇天のヴァルリッツァー」と揶揄される少女、イースフォウの成長を、丁寧な話運びと描写、そして魅力的な能力・世界観設定と共に楽しめる良作だ。
 イースフォウと知り合うサブキャラクターには女の子が多いが、ただのキャッキャウフフで終わらせない。お互いの能力を戦いの中で把握し、そして認め合っていく様子や、イースフォウが自分の気持ちに気づく様子を、丁寧に描いている。
 そして話の中心となる戦闘描写も、駆け引きあり、能力同士の相性を知った上での戦略等々、躍動感があり、思わずページをめくる手に汗がにじむ。
 上巻は主にイースフォウの成長を、下巻では成長したイースフォウの持つあるアイテムをめぐり、より大きな戦いに巻き込まれることになる。
 下巻では、最初は嫌な奴だった本家の娘・スカイラインも共に成長し、イースフォウのよきライバルになっていく。下巻にあるエピソード(スカイラインVSイースフォウ再戦)は本当に胸が熱くなった。拍手喝采を起こしたいくらい! 
 そして大きな戦いに隠された謎や、失踪した父の秘密も明かされていく。物語もボリュームがあり、飽きない展開ばかりだ。
 そして特に推したい要素。どうしても女の子がたくさん出てくる作品だと、男性の存在が薄くなってしまいがちだけど、この作品では「父と娘」が非常に重要なキーワードになっていて、それがこの作品の「燃える」部分になっているのだと思う。
  
 出てくるキャラクター皆かわいいが、特に主人公のイースフォウの成長には驚かされる。イースフォウと共に悩み、驚き、怒り、泣き、そして笑うことが出来るのは、作者さんの筆力のおかげだろうと思う。
 個人的には、イースフォウの友達への態度と、お父さんへの態度がちょっと違う所に、普通の女の子っぽさが現れていて凄く可愛い。お父さんの前だとちょっと乱暴で砕けた口調になるのがなんとも可愛い。

 とにかく【戦う女の子×少年漫画的王道バトル×父娘の系譜】というキーワードにピンと来た方には、ぜひとも読んでほしい作品であることには間違いない。読み手の期待を裏切らない、素敵な作品だ。


発行:ゆにわ荘102号室
判型:文庫 134P 
頒布価格:500円
サイト:同人サークル~ゆにわ荘&ゆにわ荘102号室
レビュワー:服部匠