女性の座っている椅子の後ろには卒塔婆が括りつけられていた。女性は俯いて一切声を発さず喧噪の中に溶け込んでいた。長机の上には人でも殺せそうな厚さの本が何冊か詰まれ、その内一冊は木魚に立てかけられていた。
前衛的な女性の前に、一人の、無邪気そうな青年が立ち、言った。
「ちょっと見せて下さい」
女性は俯いたまま手でその本を示した。青年は肯定と受け止めて本を手に取った。手触りは本にしては奇妙だった。青年はちょっと変な顔をした。そこに書いてあることの八割は意味が解らなかったから。
「あのう、この本は……どういう……」
不安げな青年の問。
瞬間、女性が怖ろしい勢いで顔を上げた。
黒髪は茫と乱れ落ち窪んだ眼窩に嵌められた苺の義眼はグルリと回り裂けたのを縫い合わせた痕のある頬は紅を差したいやに大きな唇に繋がり開かれた。そうして、それ自体が白い蝮を思わせる長大な舌が――騙し絵のように――飛び出して、青年に巻きつき、一瞬一口に呑み込んでしまった。
「六人目」
青年が取り落とした人皮で装丁された本を拾い上げ、女性は帳簿に正の字を書き足した。