銃声。(第七十二夜)

 ストレスと寝不足で朦朧とした頭は、その非現実的な音を確かに聞いた。
 プラットホームに人の姿はまばら。初夏の蒸し暑い夜。終電間際の地下鉄駅。
 向こうの背広の男? あすこの足の細い女?
 発砲したのは誰だ?
 新調したばかりの眼鏡から見える世界は、やけに明瞭で、まだ目が慣れない。
 ひどく疲れる。
 こめかみをほぐしていると、「もうし」と声をかけられた。
 セミロングの若い女。
「なんでしょう?」
 女は私を見つめて気の毒そうに言った。
「頭が破裂してますよ。すっかり血みどろです」
 ああ、そうだったのか。やけに音が近かった訳だ。
「教えていただき、ありがとうございます。ご迷惑おかけします」
「いえ、お互い様です」
 女は、そう言うと去っていった。
 ちょうど次の電車が来たので、私はそれに乗って帰宅した。