ぶるぶるぶる。
藤岡は部屋の隅で震えている。それに合わせたように携帯電話が振動している。知らない番号を表示して。
「何故?」
藤岡は自問自答した。
あの女とは縁が切れたはずだ。
独身の男が長い間一つの住居に住むと現れる「影女」という妖怪とは、引越した事で縁が切れたはずである。
陰陽師が「害はない」と言ったが、今では携帯に電話してくるまでになっていた。つまりは影が実体を持ったという事になる。
「高い金を払ったのに!」
藤岡は震えながら悪態をついた。
携帯の振動は止まらない。
藤岡の震えも止まらない。
警察に電話しようにも「妖怪が怖いから」なんて相手にしないだろう。
そうこうしている内に携帯の振動はぴたりと止んだ。
ほっとため息をつく。
「どうして出ないのよ?」
耳元で女の声がして、藤岡は慌てて振り向いた。
セーラー服の少女が立っていた。
「あ、ああ……」
「キーホルダーを拾ってくれたお礼をしたかったのに、藤岡さん……。あれはお気に入りだったの。前の彼氏が持っていたお気に入り、拾ってくれて嬉しかった」
少女の手には包丁。
「お前は影女か……?」
少女は首を振る。
「●●●……」
しかし、藤岡は少女の名前を聞き取る事は出来なかった。