影女(第六十五夜)

ぶるぶるぶる。

藤岡は部屋の隅で震えている。それに合わせたように携帯電話が振動している。知らない番号を表示して。

「何故?」

藤岡は自問自答した。

あの女とは縁が切れたはずだ。

独身の男が長い間一つの住居に住むと現れる「影女」という妖怪とは、引越した事で縁が切れたはずである。

陰陽師が「害はない」と言ったが、今では携帯に電話してくるまでになっていた。つまりは影が実体を持ったという事になる。

「高い金を払ったのに!」

藤岡は震えながら悪態をついた。

携帯の振動は止まらない。

藤岡の震えも止まらない。

警察に電話しようにも「妖怪が怖いから」なんて相手にしないだろう。

そうこうしている内に携帯の振動はぴたりと止んだ。

ほっとため息をつく。

「どうして出ないのよ?」

耳元で女の声がして、藤岡は慌てて振り向いた。

セーラー服の少女が立っていた。

「あ、ああ……」

「キーホルダーを拾ってくれたお礼をしたかったのに、藤岡さん……。あれはお気に入りだったの。前の彼氏が持っていたお気に入り、拾ってくれて嬉しかった」

少女の手には包丁。

「お前は影女か……?」

少女は首を振る。

「●●●……」

しかし、藤岡は少女の名前を聞き取る事は出来なかった。