掃除も済んで、理想にまた一歩近づいた部屋を見渡す。
写真の中の、あの人の部屋そのままの柔らかなカーペット、ちいさなちゃぶ台、人をダメにするソファ、好きでもない小説をいっぱいに詰め込んだ本棚——、ううん、ダメダメ、好きになる努力は大事。そうしなきゃ、あの人にも好きになってもらえない。そう自分に言い聞かせて、ソファに腰掛ける。人をダメにする、という通称に恥じない、極めて快適な座り心地にうっとりする。あの人もきっと、喜んでくれる。
ちゃぶ台の上には、あの人が大好きなお菓子と紅茶を用意して。そうして、何度も何度も、耳の奥にこびりつくまで繰り返し聞き続けた、二人の甘い会話を交わすの。
部屋とお菓子だけじゃない。顔も声も、この姿も何もかも、今はあの人が愛したものなのだから、今度こそ、何でもない私じゃない、あの人にとって一番大切な「わたし」になれるかな。なれなきゃ困っちゃう。いっぱい薬は用意したけど、できれば、心から好きになってもらいたいもの。
さあ、もう一度最初から復習しなきゃ。盗聴器越しにしか聞けなかった甘い言葉を、今度こそあの女じゃない、わたしに投げかけてもらうために。