その染みは、最初は無かった。
天井のほぼ中央付近にあるその染みは、三十センチ四方もなかったと思われる。というのも、毎日見ているので、心のどこかで「こんなもんだったろう」という感覚があったからだ。
どうやら染みは、俺が気付いてからも、日々大きくなっているようだった。
何となく気にしつつも、これといった対策をとらなかった俺が、流石に「ヤバイだろ」と思うようになったのは、その染みが俺のベットまで延びてきた頃だった。
明日こそは不動産屋に連絡しようと心に決めたその夜、異変が起こった。染みが、ポタンポタンと、俺の顔に滴となって落ちてきたのだ。
微かな異臭を伴った滴を手で拭うと、その汚れはジワジワと俺の肌に広がった。慌ててシャワーを浴びても、一向に落ちない。一旦部屋に戻ると、染みの滴が増殖し、ベッドから家具からカーペットから、全てを汚しまくっていた。
そう、意思のある、繁殖生物のように――。
恐怖の一夜の後、染みは天井部分を残し、跡形も無く消えたが、俺は恐怖のあまりその部屋を早々に引き払った。
数ヶ月後、染みの正体が分かった。
「早く教えてくれたら良かったのに」
上の部屋で孤独死していたおばあさんの、腐敗液だった。