「声優の臓器になりたい」
医者になってから交友のなかった同級生と会した同窓会。唯一俺と仲の良かったサラダ君はおよそ冗談とは思えないトーンでそう言った。
推しの声優のイベントは全て参加、結婚したいとは思わないが友人関係になりたい、きれいな臓器を保つため食生活は徹底して酒も煙草も断った――よく見れば一滴も飲酒していない、シラフだ。
最も声優に貢献できることを考えた結果、有事の際に臓器を提供すること。一心に声優のことを想い続けた彼が到った、狂気の結論。
血塗られた悪意も行き過ぎた性欲も感じ得ない、純粋な瞳で語られたある意味崇高な夢を俺は笑うこともできなかったし、否定もしなかった。
「夢は諦めなければ叶うんだ」
四十代になり、俺の担当していた女性が臓器に重篤な病を患った。余命数年、長生きするには臓器移植をする他ない。
ふと、十年前の話が脳裏をよぎる。最近仕事を”卒業”したと言う彼女に詳しく話を聞くとアニメの声を入れていたらしい。そう、声優。
まさかね、と思うも浮かぶ彼の熱中するアイドル声優の名前などとうに忘れたし、わざわざ訊くために連絡先を調べようとも思わない。
翌日、急患が入った。頭部に鋭利な刃物が突き刺さった男性。まさか、と思った。
「先生、目撃者が言うには自らナイフを頭に振るったらしいですけど……」
四十代と思しき患者はその手に臓器提供意思表示カードを握って運び込まれ、処置虚しく脳死と判断される。
数ヶ月後、元声優の患者は臓器移植により一命をとりとめた。
天国或いは地獄で、夢を叶えた彼は満足しているだろうか。