第七十夜

少し昔。とある廃病院に探検に行ったときのこと。
 実際には建物の由来は知らない。病院ではなくホテルだったのかもしれない。
 元々は廃墟そのものが目的ではなく、関東の町の灯を避けて流れ星を撮影するための下見だった。
 屋上への階段は一般用の階段と別だったらしく、ちょっと建物の中で迷子になったとき。
 同行していた相方の一人がひどく明瞭な声でいきなり挨拶した。
「あ、ども。ありがとうございます」
 会釈をする相方に少々戸惑い半分からかい半分で聞いてみた。
「幽霊でもいたか」
「え?」
 振り返る相方。
 一行は少々あっけにとられたが、さすがに無視もできない様子で流れだった。
 ちょっとしたじゃれあいめいた問答があって、
「そっちは危ないですよ」
 と行方から現れた作業服姿の初老の老人が声をかけてきた、らしいことが相方の口から語られる。
 イヤイヤ、ツクリだろう。という者あり、泣き出してしまう女の子あり、しばらくの足止めを食らった。
 さて、そうは言っても屋上へいかないと当初の目的は果たせない。
 と、泣き愚図る女の子を宥めつつ先にいこうかということになった矢先、地震が起きた。それほど大きなものではない。
 だが、これから行こうかと思った先で、ズンともゴンともボンともつかない大きな音がした。
 さすがにそんな音がしてしまえば、好奇心よりも恐怖が先にたつ。
 走らないようにするのが精一杯で引き返えした。
 後日、日中に訪れてみれば、かなり大きく天井が落ちていた。